夢の軌跡
蒼りんご
プロローグ
言うなれば、辺りは紗がかかったように暗かった。
僕の日常はいつもと何も変わらないのに、両親の声ですらもノイズがかかったように聞き取りづらい。
言うなれば、深海に居るようだった。地上の光が届かない底を僕は歩いている。
顔を上げると、巨大な岩陰に隠れるようにしてブラウン管のテレビがポツンとそこにあり、何かを映していた。
「……やめろ」僕は見たくない。それでも、瞳は何もかもを捉えてしまう。吐き出した泡が海上に上がっていく。「やめろ!」
テレビには動物との感動秘話を特集した番組が流れていて、今は亡きペットに対して、いかにも泣きを誘うような御託を並べてインタビューを受けていたり、顔をしわくちゃにして醜く嗚咽する飼い主がそこにはいた。
「違う……」僕は、こんな奴らとは違う。僕の悲しみはこんなもんじゃ到底ない。
息が苦しくなる。吸い込んだ空気を全て吐き出してしまったから、どうやら限界が近いようだ。
僕は地面に転がっていたリモコンを拾い上げ、電源ボタンを強く、何度も何度も押した。
直後、電源が切れた。
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