第73話 神戸ドリーム観光 播磨社長

同時刻・神戸ドリーム観光


ネズミ男・播磨の父親が経営する神戸ドリーム観光社内では、播磨社長を中心に30名の社員たちがテレビの報道ニュースに釘付けになっていた。

もちろん報道ニュースの中身は摩耶が各報道陣を神戸から伊勢と出雲に連れて行った映像が詳しく流れている。


「どうだ!見たか諸君!」


「見ました!社長。影松高校の制服の女子高生が確かに多くの報道陣を連れて瞬間移動したのを確認しました」


「だろう?摩耶といったかな?この女子高校生は、昨日も言ったようにうちの息子のクラブの後輩なんだ」


「それが本当なら凄い事ですね」


「ほんとだ、うちの会社はこれで他社を引き離せる」


「しかも今日の株式市場では、全ての旅行会社の株がストップ安です!」


「流石は社長の息子さんです!我が社のヒーローですね」


「みんな、わかってくれたか。大チャンス到来だな。まして彼女が今回テストで行った先は、わが社が今キャンペーンをやっている出雲が含まれている」


「おい!高橋!昨日指示した出雲行きツアープランのコスト計算はできたのか?」

部下の高橋課長に播磨が問う。


「はい、もしも瞬間移動ができたらと言う仮定で計算しましたが、このニュース番組を見る限り、『もしも』は杞憂ですね」


「そうだ。手短に結論から言ってくれ」


「はい、結論から言えばツアーの移動にかかるコストは従来の10分の1になります」


「何?0じゃないのか?」


「社長、全くの0にはなりません。1つは移動装置のある渦森山まで行くバスのチャーター費用、それと行った先の出雲市内観光などの移動コストがありますから、0にはなりません」


「なるほどな。じゃあちょっとコスト表を見せてくれ」

高橋課長は播磨社長に、出雲ツアーを説明した書類を手渡した。


しばらくページをめくる播磨社長。

「よくわかった。これなら他社の半分以上値引きをしても利益が十分見込めるな」


「はい。利益もさることながら、大切なのは時間です。一瞬で目的地に着くので移動時間が短縮できるますから、一泊二日でも実際は二泊三日の内容を盛り込むことが可能です」


「そうだな。それとなんと言っても道中の安全の確保だ。長距離移動のバスの事故を考えなくてもいいから、この旅行保険も無意味だから削っていい」


「それは凄い!」

「どこでもドアだからな!」

「我が社は無敵だな!」


集まった社員たちも熱く語らう。


「しかし問題は、あの摩耶という女子高生が我が社のために素直に働いてくれるかどうかだな」


「それなら息子さんが『大丈夫だ』と言っていたではないですか?」


「ああ、あいつの上目使いの『大丈夫』は昔から全くアテにならん!定評がある」

さすがは経営者、ネズミの実体をよく見極めている。


「まあ、彼女とは俺が直接交渉するから安心しろ」


「わかりました!」

神戸ドリーム観光社は社長の一言で一丸となった。

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