第64話 シャクと烏帽子

校長室に取り残された中居先生とメグと秀、星。


「さぁ、そろそろ校長先生が驚いて帰ってくるぞ。これは見ものだな」


「ほんまでんなあ、あの校長先生の驚く顔が見たいわ」


「そうなんだナ。絶対びっくりしてくれるんだナ」


「ところで君たち、明日の夜はうちの親父殿との会談よろしく頼むよ」


「任せてください。こちらも望むところです」


そうこうしていると、いきなり校長室のドアが開いて摩耶と校長先生が飛び込んできた。


「いやー!大変だった!すごかった!びっくりした!驚いた!形容のしようもない!」

これが藤田校長の第一声であった。

もう県立高校の校長職の威厳も何も無い。


「だから言った通りでしょう?校長先生。一瞬で渦森台まで行って帰って来れたでしょう?」


「摩耶さんの肩につかまった歩いていたら、なんだか急に渦巻きが目の前に現れて、あっという間に渦森台に出てこれた。長生きはしてみるもんだな。この年になってこんないい経験ができるとは思いもしなかったよ」

興奮が冷めないのか肩で息をしている。


「それはよかったでんなぁ、ええ経験でっしゃろ?校長先生」


「ところで、校門に来ていたマスコミたちはどうしたんですか。なんか何重にも取り巻かれて質問されていましたね」

メグが尋ねた。


「ああ、連中は明日のお昼休みに体育館で摩耶さんとの正式インタビューをすると言ったら納得してすぐに帰っていったよ」


「そうですか。摩耶ちゃん、いよいよ明日表舞台でデビューするのね。がんばってね」


「はい、がんばります」

とメーテル。


「ところで貴重な体験をした上で君たちに1つ質問していいかな?」

と藤田校長が改まって尋ねた。


「先生どないしましたんや?また改って?」


「神社の鳥居の下に瞬間移送できる事は理解できたが、もしその時に鳥居の下にたまたま誰かいたらどうするんだ?突然人が現れたら衝突事故にはならんのかね?」


「いい質問ですね校長先生。摩耶ちゃんからの説明は無かったみたいだから私が説明します。この星が鳥居付近に小型カメラを設置してスマホで鳥居の下に誰もいないことを確認してから瞬間移動するんです。何事も安全第一!」

と親指を立てるメグ。


「なるほどな。衝突事故はそれで回避するんだな。じゃあ聞くが、現代はいいとして、スマホがなかった昔の時代ではどういう風に回避していたんだ?」


「あ、これは僕が説明するんだナ。なんと、昔も実はスマホがあったんだナ。ていうかこれも僕が作ったんだけれども」


「え?まさか昔の時代にもスマホがあったのか?ウソだろう?」

中居が叫んだ。


「あら、みんなよく歴史の教科書なんかで絵や写真で見てるじゃないの!」


「歴史の教科書でだと?絵や写真?長年日本史の教師をやってる俺が言うのもなんだが、そんなものがあったかな?」


「何言ってんの、中居先生らしくない!ヒントは聖徳太子よ」


「聖徳太子?」


「そう、聖徳太子が持ってるもの」


「聖徳太子が持ってるもの?シャクか?」


「ピンポーン!当たりでんがな」


「なんとあのシャクがスマホだったのか?」


「昔からそうなんだナ。あの長細いシャクっていうのはみんな意味がないお飾りみたいなものと思っているけれども実は縦型のスマホだったんだナ」


「あのシャクを持っている聖徳太子の絵は、誰が見てもスマホを見てるポーズやおまへんか?今の若者と一緒やと思いまへんか?」


「だからすべての神社の神主は『今からそっちに行きますけど人がいませんか』と立型スマホ見て確認していたんだナ」


「ついでに言うと、当時は電波塔はおまへんかったから、直接スマホ同士の電波のやりとりになったんや」


「そうなんだナ。電波を受信するために頭の上にアンテナをつける必要があったんだナ」


「せや、それがあのかっこう悪い冠と烏帽子でんがな」


「かっこう悪いとは心外なんだナ。あれでも一生懸命に小型化した高性能の傑作なんだナ」


「まあまあ、アンタたち!喧嘩はダーメ!」

急遽メグがなだめに入る。


「なんと・・・シャクがスマホで、冠と烏帽子が受信用アンテナだったとは気がつかなかった!」


「そんなもん、よー見たらわかりまんがな」


「確かに君たちといると、いろんな謎解きが聞けてほんとに勉強になるな。しびれるよ、全く」


「今日はいろんな体験をさせてくれてありがとう。じゃあ明日の昼休みは摩耶さん、すべてのマスコミを呼んでるから頼んだよ」

最後に藤田校長が締めくくる。


「わかりました、頑張ります」


「じゃあこれで解散するとしようか」


「「「「先生さよなら」」」」


「「ああ、また明日な」」

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