第59話 神戸市役所 観光課

観光課


事務所内には

「ようこそ神戸へ!」

「是非、世界一の神戸牛を!」

「有馬温泉は日本で1番古い温泉」


などのポスターが掲げられている。

観光課のメンバーは総勢120人いるが、各地からかかってくる電話の対応で忙しい。


渡辺課長が勢いよくドアを開けて入ってきた。


「みんな集合だ!手の空いた者は集まってくれ。今から言う俺の話を聞いてくれ!」

120人の手が止まった。


「どうしたんですか!課長、血相を変えて?」


「これからの神戸の立ち位置が変わるんだ」


「神戸の立ち位置が変わるとは、どういうことですか?」


「実は神戸は古代文明時代に世界の首都だったらしい」


「何ですか?急に?」


「世界の首都?」


「まさか冗談でしょう?」


いろんな憶測が飛び交った。


「ほんとなんだ。その証拠に今朝御影にあるトンネルで、俺は瞬間移動と言う貴重なものを見てきた」


「瞬間移動?」

「課長、体調大丈夫ですか?」

「漫画のノリですね」


「いや、みんなが疑うのも無理はないが、本当なんだ。太古の昔、神戸は世界の首都でありながら、また世界のハブ空港だった。住吉神社のある場所から世界中の神社、神殿に瞬間移動できたらしい」


「そんな夢のような話!課長まだ昨日の酒が残ってるんじゃないんですか?」


「でもロマンがあって面白いですね。私は好きです」


「騙されてるんじゃないですか?」


「嘘じゃない本当の話だ、疑うなら証拠はYouTubeを見てくれ」


若い課員がパソコンを開いてYouTubeを見た。


「ほんとだ課長がいる。え?いま女子高生が消えた・・・」


「ほんとだ、消えた」


「確かに消えただろう?これは消えたのではない。彼女は渦森山の住吉神社まで瞬間移動して帰ってきたんだ」


画面をもう少し見ていると、そこには誰もいない空間から女子高生が戻ってくる姿が現れた。


「すごい!戻ってきた。ワープだ」

「ほんとだ、まるで夢のようですね」


「そうなんだ。まさに夢のようなことが起こった。これから神戸と言う街自体の格付けも変わるし、またこの瞬間移動によって神戸に来る人も大いに増えるだろう。またハブ空港の役目をして神戸からどこかに行く人も大幅に増えるのは間違いない」


「これでライバル横浜に勝てますね!」

スタッフは神戸と永遠のライバルであった横浜に勝てそうだと喜ぶ。


有馬温泉と神戸牛の存在で、同じ港町横浜には差別化していたのであるが、やはり首都東京に近いという理由で横浜には集客で負けていたのである。



「今までの旅行や移動の概念が根底から覆る時代がきたんだ。『横浜に勝つ』なんて小さい話ではない」

最初はすべての話を疑っていたスタッフであったが、YouTubeを何度も再生していてその疑問が払拭したのであろう。


「神戸がそういう事になるならわれわれはもっとPRのしがいがあるな」


「ああ、今までは温泉と神戸牛に絞って海外からのインバウンドを狙っていたが、もう一つとてつもない大きな大きな柱ができたな」


「みんな、わかってくれたようだな。と言うことで皆それを念頭に置いてくれ。とにかく今から世界中の注目はこの神戸に注がれることだけわかってくれればいい」


「「わかりました!」」


120名のスタッフが顔を紅潮させて渡辺課長の言うことを理解した。



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