第56話 重量制御装置


みんなが注目する中、星がゆっくりと立ち上がった。


「了解なんだな。先生ちょっと黒板を借りていいかナ?」


と星は黒板の前に歩いて行き高井先生からチョークを渡された。


「1983年ソ連昆虫学博士、 グレベニコフ博士」

星は大きく書いた。


「この当時僕はソ連アカデミーの有名な昆虫学者だったんだナ。その時に僕は同僚のグレベニコノフ博士に重力制御の方法を教えたんだナ」


「保倉、お前が昆虫学者で教えたってのは発想が面白いけんども、なんで旧ソ連を選んだんや?」


「先生、実はシベリアのある地域に生息している『アオイロ・タマムシ』という昆虫の羽が1番重要なんだナ。このシベリアに生息している昆虫の羽の成分であるキチン質が重力制御に必要なことを僕はグレベニコノフ博士に教えたんだナ」


「キチン質が重力制御に重要か。まあ、ぶっ飛んだ話やけども面白いやおまへんか。先を続けてんか」


「すると彼はその昆虫をシベリアまで行って採取してきてタマムシの羽をたくさん集めてカーペットに敷き詰めたんだナ」


「ほう、それで?」


「そしてそのカーペットはまるで魔法の絨毯のように浮き上がったんだナ」


「そんなバカなことがありまんのか?物理原則に完全に反対に作用してるやおまへんか?」


「でも実際に大勢の科学者の前で実験しても、その絨毯は長時間空中に浮いていたからもうこれを見ると否定する人間はいなかったんだナ」


「そんな話は、大学でも聞いたことあらへんで」


「うそか本当か、ネット検索してみればわかるんだナ」


「本当だ!」

「グレベニコフでググッたら出てきた」

「マジかよー」

クラスメートがスマホで検索して声を上げた。


「しかもその後彼は、浮かぶだけでなく浮遊状態をコントロールするために蛇腹のカーペットを考案したんだナ」


「蛇腹とはなんでんねん?」


「アコーディオンの側面のような形状なんだナ。バイクのスロットルのような装置でその蛇腹を開閉する仕組みを作ったんだナ」


「言ってる意味がようわからんな」


「形はスクーターに似てる装置をイメージしてほしいんだナ。人が乗る台にはカーペットを敷いていたんだナ。そしてスロットルを開けるとカーペットの下の蛇腹が広がりタマムシの羽根が平面になって空中に浮く。そして蛇腹を閉じるとタマムシの羽根が対面して反重力作用が相殺してそのままに降下するという装置を作ったんだナ」

黒板に50cm四方の台にバイクのハンドルが付いた装置の絵を描いて星が説明する。


「なんやら夢のような話やな」


「しかも体重移動によって前に進むこともできたし、ターンすることができたんだナ。これは今のスケートボードのような感覚で運転できたんだナ」


「その話は本当でっか?」


「もちろん本当なんだナ。しかも時速マッハ1.5まで出せたんだナ。教えた本人が言ってるんだから間違いないんだナ」


「マッハ1.5?戦闘機並みのスピードやおまへんか」


「しかしグレベニコノフ教授はこれだけの実験結果を残していたのに、その後学会の反対勢力に否定され、『気違い博士』と命名され失意のうちに学会を去ったんだナ」


「それはもったいないやおまへんか?人類にとって重力制御と言うのは夢のまた夢なんや」


「教授が装置を壊して学会を去った理由はもう一つあったんだナ。それは彼が小さい頃から昆虫を愛する人間でこの装置が一般的になることによってシベリアのこの『アオイロ・タマムシ』が絶滅することを危惧したんだナ」


「しかしその飛行原理はどないなってるんや?重力に逆らうと言う事はそれ以上の力が働いてやっと浮かべるんやで」


「先生、いい質問なんだナ。日本には合気道っていうのがあるんだナ。これは相手の力を借りて自分の力をプラスして相手に返すこれが合気道の考え方なんだナ」


「それはわかりま。生身の人間やから力を受け流してエネルギーを相手に返すことができまんのや。しゃーけど機械的にそういうことがホンマにできまんのか?」


「前から来る力をそのまま前に向かって使うのはみんなも良く知っている『ヨットの帆の原理』と同じなんだナ」


「ヨットの原理?」


「ヨットは真正面から風が来てもそれに向かってまっすぐに進むことができるんだナ。アオイロ・タマムシの羽根のキチン質には前から来た力を前に向けて返す性質があるんだナ」


「なるほどな・・・壮大な夢物語やけど先生は無茶苦茶好きやな、保倉はんの話が」


「だから今回は僕が同じ装置をもう一度みんなに教えて作ろうと思ってるんだナ」

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