第53話 ユーチューバー・タマ袋
摩耶が吉原とマイ、アミを連れてお化けトンネルに入って行った時間に話を戻す。
トンネルに入るやいなや素頓狂な大声が聞こえてきた。
「こんにちはー!YouTubeのタマ袋でーす。今日はここ神戸市東灘区御影にある通称お化けトンネルに来ています。なんでもこのトンネルには瞬間移動装置ってのがあって日本の神社に瞬時に移動できると言う噂です。本当かな?今日はそのリポートのためにわざわざ姫路から始発電車に乗ってやって来ました」
タマ袋は有名なYouTuberでフォローの人数が100万人を超えるというカリスマになっているほどの青年である。
ただ出で立ちはサングラスをかけて海辺に近いような服装を着て非常に軽い印象は拭えないが、これが彼本来のトレードマークらしい。
「はい、現在は朝の7時ですけれどもトンネル内には数名の通学生徒とあと、先生ですかねスーツを着た方たちが3人ほどいらっしゃいます。おそらく皆さんもこの瞬間移送装置を見に来たことと思われます」
トンネル内にこだまするタマ袋の実況放送を横で聞きながらゴジラの父親と新谷、播磨の父親が名刺交換をしている。
「はじめまして。こいつの父親の神戸市役所に勤めています渡辺二郎です」
「こちらこそはじめまして。うちの息子がいつもお世話なっております。野原証券の新谷昇と申します」
「こちらこそはじめまして。神戸ドリーム観光の代表播磨豊と申します。不出来な息子ですがよろしくお願いします」
狭苦しいトンネルの中で大人3人の名刺の交換が始まった。
「なんか大人の世界ってさぁ、妙に堅苦しいよな」
「ほんとだな。もっと『まいどー』みたいなやわらかな感じでいけないのかな?しかも俺のことを不出来と言いやがった」
「まあ、俺たちもあと数年後にはその大人になるんだからここは黙って見習おう」
ゴジラの言葉に従う新谷と播磨。
そうこうしてるうちに南の入り口から摩耶が吉原とマイ、アミを連れて降りてきた。
「あら、ゴジラ部長、新谷先輩、播磨先輩おはようございます」
摩耶が挨拶をする。
「おお、いいところに来たな、摩耶。親父たちにお前が瞬間移動できるところを是非見せてやってくれ」
播磨が救世主が現れたように喜んで命令する。
父親の手前、摩耶に対しては上から目線だ。
「分りました播磨先輩。じゃぁ、ジョージおじさん一緒に行きましょう。私の肩につかまってください。マイさんアミさんはここで待っててね」
そのときタマ袋がまた実況を始めた。
「いやー、何か始まりそうですね。1人の女子生徒がやってきました。そしてポケットから何やら水晶でしようか光る石のようなものを出してきたようですね。一体これから何が始まるでしょうか?」
「じゃあジョージおじさん私につかまってそのままゆっくり歩いてね」
と摩耶はもう一度ミスマルノタマのウタヒを唱えだした。
そしてトンネルの中間地点をそのまま歩き始めた途端に小さな渦巻きが出て2人の姿は掻き消えたのであった。
「あー!なんと言うことでありましょうか!さっきまでいた2人がまるで雲隠れしたように消えてしまいました」
タマ袋がスマホを片手にうるさくレポートする。
それを見た渡辺、播磨、新谷の父親は口をあんぐり開けて驚愕の表情を隠すことはなかった。
「消えた?」
「ええ、確かに消えましたな」
「2人はどこへ?」
しばらくするとまた渦が現れて摩耶と吉原が帰ってきた。
「すいません、お二人は消えてまた戻ってきましたが、今どこに行ってきたんですか?」
新谷の父親が摩耶の背後にいる吉原に聞いた。
「はい、私も信じられないことですが渦森山まで行って、今帰ってきたところです」
そう言って吉原は神社からデジタルカメラで撮影した朝の神戸港の風景を見せた。
「失礼ですが、貴方様は?」
新谷の父親が尋ねた。
「はい、私は神戸・シティライフの編集長をやっております吉原と申します。ジャーナリストの誇りに賭けても嘘は申しません。たった今瞬間移送をやって帰ってきたところです」
「お前の言う事は本当だったんだな・・・」
とそれぞれの息子に話しかけていた。
1番最後について来たウィングのマイとアミは摩耶と吉原が消えてまた現れたことで驚いた表情を隠しきれない様子である。
「いやー!何ということでしょうか?また2人が帰ってきました。これは奇跡です、奇跡です、現代の奇跡と言うより表現のしようがありません。私は今奇跡の現場に立ち会っているのです!」
奇跡、奇跡とやかましい。
サングラスと短パン、アロハシャツのタマ袋が発狂したように実況中継をしている。
「さあ今度はマイさんとアミさんの番よ。しっかり肩につかまっててね」
「「はい!」」
渦巻が見えた途端に同じように摩耶はマイとアミさんを連れて渦森山まで往復してきた。
「「凄ーい!」」
マイとアミが狂喜乱舞している。
「奇跡!奇跡です!またまた、奇跡が起こりました!何ということでしょうか!」
タマ袋がまた「奇跡」を連呼している。
「これはすごい時代が来るな・・・」
2回も信じられない事実を見た新谷の父親がつぶやいた。
「だろ?親父」
「すぐに会社に帰って今見たことを会社の経営会議にかける」
「いやー、わが社がこの装置を使ったら日本中に瞬時にしてお客さんを送ることができるな!間違いなく旅行業界の革命が今から始まるよ」
と播磨の父親が叫んだ。
「神戸のこの地域がこの装置によって日本中いや世界中の人たちによって認知されることになる。これは神戸市にとって非常に有益な情報だ。ありがとうな」
渡辺の父親はゴジラの肩を叩いた。
三者三様それぞれの大人たちは情報を提供してくれた息子に感謝していた。
「あの、新谷さん、この状況を見て少しお話があるのですが・・・」
播磨の父親が新谷の父親を誘った。
「はい、何でしょうか?」
「ここではちょっと話にくいのですが。おい、正男。この辺に静かな喫茶店はないのか?」
「ああ、アリと言う喫茶店があるよ。学校の裏だよ」
「ではそちらの方でお話ししましょう」
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