第38話 英語教師 新井との問答

 翌日、英語の授業


「ガラガラ」教室のドアが勢いよく開いた。


 いきなり英語の担当の新井が入ってきた。


「さあ始めるぞ!」

 大声で新井が宣言する。


「ガッツ星人登場かー」


「いややなー」


 新井の授業は毎回緊張感たっぷりなので、クラスの全員は今から始まる拷問のような授業に身構えた。


 相変わらず「暑いから」という理由でワイシャツを脱いでランニングシャツ一枚姿になって英文を読んでいく。


 しかもいつものように女子に対しても「暑かったら制服を脱いでもいい!」と豪語する。


 品格のカケラも無いが、それでもその勢いに文句を言う生徒は皆無である。


「コツコツ」と大股で教室を歩きまわり教科書の英文を読みあげる新井。


「おいこら、ここは第何文型だ?」

 広川に聞く。


 三秒で答えられないと広川の頭を教科書で殴る。


「いてー!」頭を抱える広川。


「第3文型よ」

 とメグが囁くが聞こえないらしい。


「遅い!第何文型だ?おい、次は足立答えろ」


 すぐに答えられない足立の頭にまたもや教科書が飛ぶ。


 体罰の権化が大股で教室を歩き回る。


「だいたいお前たち、すぐに何文型か答えられなかったらいい大学に入れないぞ」


 新井の大声に亀のように首をすくめる生徒たち。


「先生!質問です!」


 急にメグが手を挙げて立ち上がった。


「なんや、卯原!」


「いい大学に入ることが何で必要なことなんですか?」


「当たり前だろ!お前たちはせっかく進学校に来ているんだ。そんなことは当然のことだろうが!」

 新井はメグの前にきて立ちはだかる。


「もし、いい大学に入れなかったらどうなるんですか?」目の前の新井に反論するメグ。


「決まっているだろうが。卒業後にいい会社に入れないだろうが!」


「先生の言う『いい会社』っていうのはどういう会社ですか」


「決まってるだろう!世間に名を知られていて資本金が大きくて社員数が多くて給料が高い会社だ!」


「有名で給料が高い会社に入ったら何がいいんですか?」


「決まってるだろう!いい家が建てれるし福利厚生もしっかりしていい人生が送れる」


 急に始まったメグと新井の「価値観バトル」にクラスメートは戦々恐々としてその成り行きを見守る。


「そもそも先生にとって良い人生とはどういう人生なんですか?」


「お金があって余裕があり、豊かな暮らしができる人生だろう。決まってるだろうが」

 決め付けるように言う新井。


「でもそれは先生お一人の価値観でしょ?」


「いや、ほとんどの人間の価値観だ。ほとんどの人がそういう生活を望んでいる」


「そんなことないと思うのよ。少なくとも私はそうは思いません!」


「何を言ってるんだ?」


「人生というのはその人によって価値観が違うので焦って競争しなくてもいいのよ。自分の人生と価値観は自分で決めればいいと思うの」


「それはお前の勝手な理想論だ。全ての人間がそうは考えていない!」


「いえ、先生。目を覚まして下さい。そろそろそういう時代が来るんです。今がお金や物質が価値を持たない時代に変わる大きな歴史の転換点なんです」


「何を訳のわからないこと言ってる!そんなことより、これは何文型だ?」

 いきなり英文を読む新井。


「そんなもの簡単よ! 第4文型次に第2文型、最後は第3文型です。こんなものはいくらでも瞬時に答えられます」


「お、おう。たしかに生意気なことを言うだけあってすべて正解だ」


「先生の『大学入試』対する効率的な授業は認めます。でも本当に大切なものはそういう紋切り型の詰め込み教育ではないはずです!」


「まあ、たしかにお前は全て答えられる優等生だからお前の意見は尊重して聞いてやる。しかし他のできない奴が同じこと言ったら許さんぞ」



「ねえ!聞いたみんな!今度の中間試験は頑張って新井先生の言うように満点を取ってあげましょう」


「ふん、そう願いたいもんだな。しかしできるか?」

 と不機嫌そうに新井は言った。


「言いたいことはそれだけか?卯原?」


「はい!以上でーす!」


「今日は気分が乗らん、授業中止!以降プリントを配るから自習だ!」


「やったー」


「ラッキー」

 とクラスから凱歌が上がる。


「はいプリントを配るぞ。今日覚える単語はこの10個だ!必ず今日中に覚えておけ」


 新井はいつもの語呂合わせの英単語プリントを配り終えると乱暴にワイシャツをつかんでランニングシャツのまま教室を出ていった。


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 1 utter 

 読み方:アタァ

 意味:叫ぶ

「“あった~!”と叫ぶ」

 2 yen 

 読み方:イェン

 意味:熱望する

「ご縁がほしいと熱望する」

 3 acquire 

 読み方:アクワイヤー

 意味:~を得る

「悪は嫌だと正義感を得る」

 4 concern 

 読み方:コンサーン

 意味:~と関係がある

「コンさんと関係がある」

 5 deny 

 読み方:ディナィ

 意味:否定する

「“そうでない”と否定する」

 6 author 

 読み方:オーサー

 意味:著者

「王様は著者」

 7 article 

 読み方:アーティクル

 意味:記事

「あの記事は盗作だとあぁチクる」

 8 amend 

 読み方:アメンド

 意味:訂正する

「あ、面倒だけど訂正する」

 9 errand 

 読み方:エレンド

 意味:使い、使命

「使命を選んどる」

 10 enchant 

 読み方:エンチャント

 意味:魅了する

「ご縁、ちゃんと相手を魅了する」

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「パチパチパチ」

 と教室内から大拍手が起こった。


「やったーガッツ星人敗れる!」


「メグ、最高!」


「みんな、喜ぶのはまだ早いわ。本当に今度のテストは満点を取って見せましょうね」


「了解!」


「頑張るわ」


 前向きの意見が飛び交う教室内。


「よし、みんな。メグに恥かかさないよう満点は無理でも努力して見返してやろうぜ!」


「「おう!」」


 クラス委員の桐山の声に応える全生徒。


 生徒たちは配られたプリントを真剣に覚えようと努力していた。



「キーンコーンカーンコン♫」


 自習時間が終わり終礼の鐘が鳴った。


「ねえ、あんた達。今日の部活動はゴジラ先輩とあとの3人の先輩を渦森山まで移送装置で連れていってね」


「よっしゃ、まかしとけ」

「了解なんだな」




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