第37話 使命

「いろいろ質問がまだあるんだが、どうだろう一旦部室に帰ってこの続きをやらないか?勉強のために部員全員にこの話を聞かせたいのだが・・・それともまだ部長や他人には君たちの正体を内緒にしなければならないのか?」中居が提案する。


「全然OKよ!私たちの正体は前からはっきり言ってるじゃあないの、カタカムナ人って。むしろゴジラ先輩にもみんなにも真実を知ってほしいわ」


「そうか、それならすぐに部室に戻ろう」


先ほど移送から出てきたお化けトンネルをくぐって部室に帰る5人組。


トンネルの真ん中では中居と摩耶が不思議そうに壁を撫でている。


「しかし、どこにも装置らしいものはないんだがなあ」


「そらそうや、誰にも見えへんようにした言いましたやんか」


「さあ、早く部室に行きましょう」



メグに促されて三階に上がり部室のドアを中居が開けるとみんなは来週行くミステリースポットの外人墓地の地図を見ていた。


「あ、先生お帰りなさい!」


「お帰り」


中居を含む5人の顔を認めて全員が立ち上がった。


「みんなすまん、一旦作業中止だ」


「えー、先生何かあったんですか?真剣な顔して?」


「先生はたった今、渦森山まで移送されてきた!」


「えー!まさか?」


「移送ってワープですか?」


「信じられないー」


「信じられないだろうが事実は事実だ。摩耶さんも体験してきた。」



「はい、先輩方、本当なの。そこのお化けトンネルから私の家の近くの住吉神社の奥宮まで一瞬で移動したわ!」


「結論から言うてやはりこの3人は正真正銘のカタカムナ人だった!」


「せやから最初からそう言うてまんがな」


「僕らは決してウソはつかないんだナ」


「先輩方、もう一度大きな声で言うわよ。私たちは・・・」

メグがそこで区切って


「せーの!」


「カタカムナ人なんです」

「カタカムナ人でんねん」

「カタカムナ人なんだナ」


やはり語尾が揃わない。


「わかったわかった、先生と摩耶さんがそこまで言うのだから信じるよ。それに君たちの豊富な知識量がそれを裏付けている」

ゴジラが納得したように言った。


「みんなも信じてくれ。とにかく一度瞬間移送を体験したらいい。卯原さんまた彼らを渦森山まで連れて行って欲しい」


「全然OKよ!お安い御用よ!明日にでも行きましょう」


「やったー」


「明日、瞬間移送が体験できるー」


部室内が一度に騒々しくなった。


「まあ全員座ってくれ。瞬間移送の詳しいメカニズムなどは、先ほどウイングで聞いたのだが今から続きをいろいろ彼ら3人に聞きたい。いいかな?」


「大丈夫なんだナ」


「なんでもかまへんで」


「よし、まずは根本的な質問をするが、君たちカタカムナ人の我々人類へのアプローチの目的はなんだ?」


「古代から私たちカタカムナ人が帯びている使命は人類への最新科学と宇宙の原理の伝達よ」


「せや、前にも言うたけど科学のほうは全部で16個の科目がおまんねん」


「16個?」ラスカル・堀が尋ねる。


「ああ、先生は前に既に聞いたから彼らに説明してやってくれ」


「了解や、人類が進化して理解できる順番に


農業

窯業

製鉄(冶金)

建築学

航海術

天文学

数学

哲学

物理学

医化学

電気学

電子工学

原子力

遺伝子学


磁場力学

重力制御


の16個や。

今の天皇はんの菊の御紋の花弁がそのマークや」


「そうか、天皇家の御紋はそういう意味があったのだな」ゴジラが唸る。


「いや正確にはこのマークが使われたのは日本の天皇家だけでないんだナ。古代文明の痕跡を丁寧に見るとわかるけど世界中でこのシンボルマークは使われていたんだナ」


「そういえばシュメールやエジプト、インダスの文様で同じデザインのものがあるな」新谷が壁にかかった写真を指差す。


「大体私たちは今までに100年から200年間を使ってひとつづつの項目を教えていったわ。最終的に私たちから学んだ知識で自分たちの手でオリジナルのものが出来上がれば試験が合格なの」


「まるで何千年という気の長い学校のようなものだな。で、どのような方法で君たちは人類に教えたんだ?」


「教え方は3通りおまんねん。

1つ目はその時代の有能な『候補者』を見つけてその者に直接伝授する方法。


2つ目は都合のいい『候補者』がおらへん場合はある程度の合格者に我々が憑依する方法。


3つ目は時間の猶予と『候補者』がない場合は手っ取り早く我々3人の誰かが発明者か発見者を装って世の中に流布する方法や」


「なるほどな、意外とやり方が慎重なんだな。しかしなぜわざわざそんな回りくどい方法を取るんだ?手っ取り早く当時の最高権力者に直接伝授すればいいと思うが」


「そこよ、一番の問題は!」メグが人差し指を立てる。


「そうなんだナ、メグの言うとおり、当時の権力者に技術や知恵を与えたらその宝を抱え込んでしまって民衆に広がらないことがわかったんだナ。エジプトのファラオの時がそうだったんだナ。あの時は王族と取り巻きだけが潤って民衆には何も恩恵がなかったんだナ」


「せや、わいらがせっかく無償で出した宝もんで銭儲けする輩がようさん出てきよったんや」


「あの・・・ちょっと聞いていい?私たちが知ってる歴史上の人物であなながた3人が演じた人ってどのくらいいるの?」


「あ、私は前も言ったけど卑弥呼、神功皇后、卯原処女、推古天皇、あとはかぐや姫、キュリー夫人かな。あんたたちは?」


「ワイは和泉壮大、武内宿禰、聖徳太子、日蓮、伊能忠敬、坂本竜馬、あとチョイ役で平十字もやったな?仰山やったさかいよう覚えてへんわ」


「ぼくは技術系なのでたくさんやったんだナ。卯原壮大、ダビンチ、パストゥール、関忠和、アインシュタイン、ニコラテスラ、最近では政木和三なんだナ。とにかく大忙しだったんだナ」


「なんと、ほとんど我々の知る有名人たちが実の正体は君たちだったのか」


「正解なんだナ」


「主に文科系はワイ、技術系は星が担当したんや」


「じゃあメグの役割は?」摩耶が聞く。


「あ、メグ?まあわかりやすう言うとマスコットガールやな」


「何?そのマスコットガールって?」ラスカルが聞く。


「その時代に我々2人がうまく溶け込めるような下慣らしの意味合いかな」


「えー!ちょっとあんたたち、私の仕事を今までそんな風に見てたの?失礼ね!」


「しゃーけどまともに人類の進化プログラムに手助けしたのはキュリー夫人の時だけやおまへんか」


「まぁまぁ、カタカムナ人の目的はよくわかった。ここは全人類を代表して何千年間の君たちの行為に素直に感謝しよう。ありがとう」

中居が頭を下げる。


「でもさっきダビンチなんかの名前が出てきたけど日本人だけでなく外国の有名人にもなったのね」


「せや、ワイらから見たら日本人も外国人も同じ人類として区別はおまへんねん。たまたまワイらの月とのメイン通路が日本列島の神戸・六甲山やっただけ」


「そうなの、でもそのおかげで日本・神戸が世界で一番最初の文明発祥地だったことになるのよ。なにせ13000年前のことだから」


「そして神戸からシュメール、エジプト、インダスなどゲートを通じて文明を伝授していったんだナ」


校舎のまわりが次第に暗くなってきた。さきほどから聞こえていたブラスバンド部の楽器の音色も聞こえなくなっていた。


「正直、朝まででも君たちの話を聞きたい気持ちなんだが、もう時間も遅くなってきた。どうだろうこれから毎日放課後はここに来て私たちにレクチャーをして欲しいのだが」


夜の8時近くを示す壁時計を見ながら中居は提案した。


「いいわよ、そもそもそれが私たちの目的でもあったから」

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