第26話 神戸市東灘区の謎 1

メグのカタカムナ謎解きの名調子を感心して聞いていたゴジラ先輩が思い出したように立ち上がった。


「あの、卯原さん。ちょとカタカムナに関連して質問したいことがある。いいですか?」ゴジラの態度と口調はもう部長と新入部員の関係ではない。


「いいわよゴジラ先輩!私でわかることだったらなんでも!」明るく答えるメグ。


「実はカタカムナに関係あるかどうかはわからないが、俺と新谷と播磨はチームを組んで、この周辺のある奇妙な事実を調べているんだ」


「奇妙な事実?」メグが聞き返す。


「おい、新谷。例の紙を持って来い」


「はいわかりました!」ゴジラに声をかけられたスキンヘッドの新谷は机の中から大きな紙を持ってきてホワイトボードに貼り付けた。


部員には見慣れた神戸市東灘区住吉町の拡大地図がそこにあった。


「なんやうちの校区の地図やんけ」

「ところどころが赤く塗ってあるんだナ」


「かつて東灘区住吉町は大金持ちが集まる大富豪の街だった。これは約110年前の話だ」のっしのっしと大股で歩くゴジラがホワイトボードの前に立つ。巨大なゴジラに並んだボードが小さく見える。


「今は大富豪の街としてはお隣の芦屋が全国的に有名よね」摩耶が意見を述べる。


「東京の田園調布も富豪の街と聞くわ」ラスカル堀も意見を言う。


「チッチッチッ」ゴジラが指を左右に振る。


「残念ながらそんなレベルの話ではないんだ。関西の超お金持ちがこぞってこの住吉町にやってきたことがあるんだ。しかもかぎられた狭い範囲内にな」


「そう、僕はその旧屋敷街近くで生まれ育ったので子供のころからそれが不思議で仕方がなかったんだ。おそらくこの住吉町の土地に何か秘密があるのかなと思っている」スキンヘッドの新谷がゴジラのあとに続く。蛍光灯の光がスキンヘッドに反射して時々うるさい。


「そこで君たちの先程の話を聞いて関連付けられることがないかなと思ったわけだ。確か神戸のこの辺りが一番エネルギーがあると言ってたよな」


「ピンポーン!関係大有りよ!」メグが笑いながら答える。


「やっぱりな!おい新谷、俺たちのチームが調べたかつて大富豪が集まった歴史を語ってくれ!」ゴジラに代わって新谷がペンをメグから受け取ってホワイトボードの前に立つ。光の反射が気になる。


「えーっと、まずここが1900年に現在の朝日新聞社の創設者 村山龍平が建てた大邸宅ね。はじめてここ住吉町に豪邸を建てた人」新谷が地図上の赤く塗ったエリアをペンで指す。


「大きい土地ねー」ラスカルがつぶやく。


「そう1万平米ある」ゴジラが答える。


「すぐ隣は弓弦羽神社ね、場所選びはさすがね」メグが地図を見てつぶやく。


「一番パワーのある場所選びよったんやな」


「あそこは特別なんだナ」


「これが引き金になってこのあとからどんどん日本経済界の重鎮たちがこぞってこの地に家を建て始めた」新谷が続ける。首の動きで頭がピカピカ光る。


「次に来たのが1904年、住友銀行初代頭取 田辺定吉と住友家総理事の鈴木馬左也」

こことここと地図の上を指差す新谷。


「つまり現在の住友グループの総帥が大阪の家を売ってわざわざこの地に来たわけだ」ゴジラが捕捉する。


「そう、次に1908年。今の双日の元になった商社の岩井商店社長 岩井勝次郎の家がここ、それと1912年、日立コンツエルンの総裁 久原房吉がここに家を建てた」順番に指を指す新谷。もう頭の光にも慣れてきた。


「この久原邸は俺の家の近くなんだがなんと1万坪もある!すごくないか?」地図上の一番大きな赤いエリアを指すゴジラ。


「そういえば住吉川に久原橋って今もあるわね」摩耶が思い出したように言った。


「続けるよ、次には日本生命の弘世助三郎社長がここに家を建てた」新谷が続ける。


「おそらくこの頃の住吉町は田んぼが広がるのどかな場所だったに違いない。そこへいきなり西洋風の高層の建築物が次々と並んでいた光景はさぞ目立ったことだと思う」同じチームの播磨が捕捉する。


「続けるよ、1912年には大日本紡績 創業者田代重右衛門と東洋紡績社長 小寺源吾がこことここに家を建てた。さらに1921年 野村財閥創始者 野村徳七の家がここ」


「あ、俺の家の近くだ」

「私の家も近くよ。昔から大きな石垣があるから何かなと思ってたの」

と他の部員も感想を漏らす。


「な、明治から大正にかけてこれだけの財閥のオーナーが短期間に大阪からここに家を移しているんだ。みんなも何か作為を感じるだろう?」ゴジラがギョロ目で部員全員を見渡す。睨まれると結構怖い。


「確かにこの地の何かのパワーに導かれて来たようだな」


「でないと説明がつかないな・・・」


「よく『私の家は住吉です』って言ったら『いいところに住んでますね』っていつも言われるもんね」


「でも小さい時から周りに大きな石垣の家が常にあったから特別とは思わなかったよね」


部室内がゴジラのチームの研究発表にざわめき始めた。


「しかもだ!」バンとホワイトボードを叩くゴジラ。暴力を振るうと本当にゴジラに見えてくる。


「この動きは昭和になってからもさらに加速するんだ。おい播磨、昭和の地図を持って来い」

二枚目の地図を播磨に要求するゴジラ。


「ほえー、顔はゴジラのくせに結構真面目でんなー」

「目のつけどころがいいんだナ」

「そうね人間、見かけと中身は違うっていうことね」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る