第8話 昼休み 学食にて
影松高校はかつて太平洋戦争が終わった後に占領に来た進駐軍のキャンプがあり、そこにはアメリカ式のカマボコ型兵舎が多数あったが今は2基のみ残っている。
サンフランシスコ平和条約の締結後、占領軍は東京や神戸などの大都市から撤収をしたが米兵が残したカマボコ型兵舎のあとが現在は学食として使われている。
ここでは3種類のメニューがある。
ひとつはカレーライス、二つ目はきつねうどん、三つ目はきつねそばである。
味のほうは200円という安い価格なのでお世辞にも美味いとは言えないが、燃料補給と割り切れば納得のいくパフォーマンスである。
カレーライスを頬張るメグの前に座ってきつねうどんを食べる秀(シユウ)と星(セイ)。
「ねえ、あんたたち午前中の授業を受けてどう思った?」
「アホな先生もおるし時々アホな生徒もおるな。全体としてはオモロイ学校やんけ」
「まあ、一応進学校なんだから、そこそこ地頭はいいんだナ」
「そこで今後の作戦なんだけど、今からは先手必勝でがんがんバラしていくわよ。わかったね」
「まあいつものように、あんさんに任せるよって」
「ぼくたちは、常に補佐役なんだナ」
「あー、ここにいたいた。ねえねえメグ。ここ座ってもいい?」
カレーライスを持った何人かの女生徒に囲まれている。
「ええ、いいわよ!みんなもカレーなの?」
「そうお母さんが無精者だから、お弁当作ってくれないの」
「私の家もよ」
「それより、おとといの自己紹介の時に言ってた1700年間ってどういう意味?」
「そうそう、そのあとの『守ってくれてありがとう』も意味不明!」
坂本という小柄な女生徒が尋ねる。
「でも、メグっていつも発想が面白いわね。
あ、さっきはありがとね」
茶髪の茶畑がにっこり笑って礼を言った。
「ああ、あれ?実は1700年前にできた東名にある処女塚は実は私のお墓なのよ」メグが親指を立てて答える。
「えー!まだ死んでもいないのにお墓って。縁起でもない」
「古墳が貴女のお墓なの?」
「1700年間ってどういうこと?」
「あ、今はたしか21世紀よね。これは4世紀はじめにできたお墓だから21-4=17になるのよ。つまりは1700年前ってこと」
「昔に一回死んだってこと?」
「輪廻?」
「うーん、そうなるかな?」
「じやあ、今は生まれ変わりなの?」
「そうよ、何回も生まれ変わっているのよ」
「うそー!」
「信じられない!」
「あ、そうだ、今度の日本史の課外授業で私のお墓見学よね。そこでいろいろ話しをするわ」
「あ、そういえば中居先生が言ってたわね。古墳見学って」
「そうそう結構歩くそうよ」
「3つも古墳を回るそうね」
「でもメグの発想がいろいろ面白いわね、そういうのって私、嫌いじゃないわ」
摩耶という女生徒が感心する。
「摩耶っちはそういうの否定しないの?」
坂本が尋ねた。
坂本は摩耶の小学時代からの幼馴染である。
「メグの言ってることが本当かどうかは別にして、世の中には科学では割り切れないことがたくさんあるってことよ」
「それにしてもあんたたち3人は、本当に仲いいわね。同じ中学出身?」
「いやワイは中学ちゅうとこ行ってないんやけど」
「ぼくもなんだナ」
「え、2人とも義務教育受けてないの?」
「私もでース!」
メグが補足する。
「それなのに、あの破格の知識力と交渉力って凄くない?」
「あ、そうか3人とも海外の同じインターナショナルスクール行ってたんだ。きっとそうでしょう?」
「ピンポーン!当たり。3人とも日本以外で育ったのよ。大正解!」
「あ、だから英語も完璧だったのね。今後も新井の授業で困ったら助けてよね」
「えーどこの国?アメリカ?イギリス?カナダ?」
「ひ・み・つ」
「えー!秀君教えてよー」
「ヒントは、うさぎはんがおる国や」
「そう、餅ついてるんだナ」
星が補足する。
「えー?うさぎなんてどこの国にもいるじゃあないの。ヒントになってないわよ」
「ええねん、とにかく名づけて『うさぎ王国』や。そうしとこ」
そうこうしていると、隣に座った同級生の会話が聞こえてきた。
「でさぁー、昨日の夜おそくコンビニの帰りに本当に女の声が聞こえてきたんだ」
「まじか?お前一人で歩いてたのにか?」
「最初は先に入った女子が話をしているのかと思ったけど、トンネル抜けても誰もいなかった」
「出たー!幽霊!!」
「ちょっとあななたち、それ何の話?」
男子生徒たちの会話を小耳に挟んだ摩耶が食べる手を止めて言った。
「2国のお化けトンネルの話」
「お化けトンネル?あの国道2号線の下の?」
「そう、すぐそこの」
影松高校のすぐ南側には、4車線ある国道2号線が東西に走っている。
ここには道路の向かい側に渡るための横断歩道がなく、この道路を横断するには昭和の初期に作られた小さな歩行者専用地下トンネルをくぐる必要があった。
どのくらい小さいかといえば、高さは175cmで幅は二人の人間が行き違うのがやっとの大きさである。
星のように、背が高い生徒は常に首をかしげながら通行しなければならないほどの窮屈さである。
多くの生徒が登下校で昼間に通行する分には、この小さなトンネルは怖くもなんともないのであるが、夜間は少し寂しい雰囲気になり、接触不良で明滅する蛍光灯の光の向こうから幽霊が現れても不思議でないような異様な異空間に早代わりする。
そのせいであろうか、戦後間もなく深夜に通行した生徒が向こうから「血を垂らした長い髪を振り乱した女」とすれ違ったという怪談が生まれたのもむべなるかなである。
この種の怪談には尾ひれがつき物であるが、深夜12時丁度にこのトンネルを通ると、太平洋戦争時に神戸空襲の焼夷弾で焼かれて亡くなった女性の霊が自分の子供を捜して彷徨うというものだ。
「お化けトンネル。面白そうね」摩耶がつぶやいた。
「面白くねーよ!昨日の晩、お化けが出たって言ってるんだぜ」
「だから面白いのよ。この後行ってみるわ」
「あ、摩耶。私も連れてって。まだ昼休み時間があるでしょう?」
「ワイも見とこ」
「ぼくも行くんだナ」
「いいわよすぐそこだから5分もかからないわ」
「お前たち物好きだなあ。まあ昼間に出る幽霊もいないか・・・」
「さあエネルギーも補給したことだし、みんな幽霊見物に行きましょうか?」
全員が食べ終わったことを確認したメグは立ち上がって大きく背伸びをした。
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