第196話 飛ばし 2
現在の証券会社はほとんど証券マンがいなくて主に「ネット取引」が主流になっていると聞く。
そりゃそうだろう。
これだけインターネットが流行って全銘柄の株価や気配や出来高などがすべて瞬時に投資家のもとに届く時代に、その仲介役となる証券マンの存在はもはや過去の産物になってしまうのは当たり前だ。
しかしインターネットが普及する前の時代は株を売買する時に証券マンが介在したので「悪巧み」をする余地が随所に存在した。
要するに「証券マンのモラル次第」によってはどんな悪事も簡単にできる土壌があったと言うことである。
俺が在籍中の証券会社でも「飛ばし」の基本形となる行為が毎日のように平気で行われていた。
これを「花買い」と言う。
「飛ばし」は何千億円単位でやった悪事であるがこの「花買い」と言うのは何千万円〜何億円単位の小さな悪事のことである。
しかし単位こそ「飛ばし」に比べて小さいが「悪事」は「悪事」である。
「花買い」と言うのは何かと言うと、「今日上がるだろうな」と思う株を名義を特定せずに「ミスターエックス」の口座でとりあえず買っておくのだ。
要するに買った段階では、この株の所有者は誰のものでもないと言うことである。
そして思惑通り株価が上がったら、その日に売り切って支店にとって大事な顧客や今まで損を出している客に優先してはめ込む「悪事」である。
競馬に例えると競馬場の従業員が当たりそうな馬券を買っておいて、もし入ったら損をさせていた客に優先的に渡すようなイメージを持ってもらったらいい。
問題は「思惑通り上がらなかった場合」である。
その場合は「花買い」で買った株が値下がりしてる状態なので、誰も買う人はいない。
そこでどこかで語ったと思うが「公衆便所」と言われる「何を買われても文句を言わない客」のもとに黙ってはめ込まれるのであった。
要するに今のネット証券では考えられないような悪事が平然と行われる土壌があったのである。
これの桁が3つほど大きいのが「飛ばし」の現状である。
俺は証券会社を辞める際に、このような顧客に対しての背信行為をしていたら「全員手が後ろに回る」と言うことを支店長に言った。
すると支店長は
「わが社がそんなことになる事は絶対ない」と平気で言い切った。
「なんで『いい大学を出たエリートたち』がこんな簡単な事がわからないんだ」と複雑な思いをして辞めた記憶がある。
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