第167話 筋肉マン・京極

俺の2つ下に京極と言う後輩がいた。


名前から察するように非常に家柄が良いやつらしい。


なんでも「やんごとなき人」の家系に生まれたという鳴り物入りで入社してきた。


しかし、家系がいいがゆえに少なくとも証券会社の飛び込み営業には向いてないことはすぐに分かった。


なんか「上から目線」で態度が横柄なのである。


その上、京極の風体は小太りで坊主頭に分厚い唇と男前からはほど遠い。


まるで漫画のキン肉マンにそっくりなのである。


マジで「漫画・キン肉マン」は彼をモデルにしてできた漫画ではないかと思うほどであった。


当然やつは、証券会社の厳しい営業に向いていないので同期と比べて営業成績はすこぶる悪かった。


当然だが毎朝、営業課長に怒鳴られていた。


しかしある日を境に、彼はどんどん顧客を開拓していって支店内の注目を集めることになる。


この事に支店長も大いに彼を褒めた。


「京極を見ろ!コツコツやれば客はできるんだ!」

と朝礼でもヒーロー扱いされた。


新人担当の営業課長も「京極を見習え」と大声で他の同期の社員に叱咤激励するような始末だ。


しかし俺は、京極とよく麻雀や飲みに行っていたのでこいつの特性をとことん知り尽くしていた。


「絶対おかしい」

と直感した。


「こんなやつに、そう簡単に顧客ができるわけがない。絶対何か裏がある」

と俺はにらんでいた。


そう思っていたある日のこと。


突然事件が発生したのだ。


ある顧客が店に入って来て「支店長を出せ!」と怒鳴り込んできたのである。


どうやら京極の客のようだが、本人は営業に出て不在だ。


受付のレディさんが支店長室に客を通した。


「支店長!京極さんが言った通りに株価が上がらないじゃないか。ちゃんとこの通りに責任とってくれるんだろうな」というのが彼の主張だ。


しかも彼は何やら契約書みたいなものを手に持っている。


俺の予感は的中した。


京極はなんと、支店長の引き出しを勝手に開けて、印鑑を取り出して顧客に支店長の名前で「年間何%つけます」と言う利益確定の契約書を作って客に渡していたのが発覚した。


利益確定をすれば客はいくらでもできる訳である。


さぁ、それからが大変。


営業課長と京極が支店長室に呼ばれて

「馬鹿者!他にも余罪があるだろう。正直に言え!」

とこっぴどく叱られた事は言うまでもない。


やつは全ての顧客と同じ契約書を交わしていた。


結論から言えば、こいつはその後、罰として営業課から外されて経理のほうに回されてしまった。


我々が言う「島流し」だ。

しかしこれだけでは罪は消えないと俺たちは判断した。


俺たちは、やつの額の真ん中に油性ペンで「肉」と言う大きな文字を書き込んだ。


「1週間は絶対に消さないように」

という条件付きだ。

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