第156話 十三のラブホテル

電話の呼び出し音が鳴る。


「頼む、すぐに出てくれ」

俺は祈った。


「はい清田です」

冷たいドスの効いた声が返ってきた。


正直俺はほっとした。


「もしもし太田です。清田さん今どちらにいますか?」


「なんや太田はんか!どないしたんやこんな時間に」

急に明るいトーンになる。


「よかった、是非会いたいんですわ」


「今は十三で飲んどる。いつも一緒に行ってた店や。ところで今どこにいまんねん?」


「今は、阪急十三駅の公衆電話からかけてます。実は相談があります」


「相談?わかった。そこからやったら5分で来れるやろ。待ってるわ」

俺は取りあえずほっとしながら歩いて行きつけのスナックに行った。


「おう、太田はん。こっちこっち!」

清田さんが手招きする。

俺は呼ばれた席に座る。


「ほんでどないしたんや、急に?」


「実は・・・」

と今までのいきさつをこと細かく話した。


「悪い奴ちゃなー!ほんでどこの組の何という奴や、そないな悪戯するガキは?」


「○○組の中本です」

酒を飲みながらしばらくじっと聞いていた清田さんは

「ほな戦闘開始やな。即死させたるわ」の一言だった。


とにかくこの清田さんと言う人は「即死させたるわ」と言う言葉が気に入ってるのかよく使う癖がある。


「逃げた太田はんは、ガラを拐われる可能性があるから十三のラブホテルに今日から泊まるように」


「ガラを拐われる?」


「せや、逃した舎弟たちは兄貴に怒られて、今ごろ血眼で探してるはずや。十三やったら変な奴が来たらすぐに報告があるから安全や」


「え?十三の街中を誰かが常に監視してるんですか?」


「十三の中で働いているタバコ屋やテキ屋の連中は、仕事しながら外から見かけない顔のチンピラが来たらすぐに通報するシステムになっているんや」

システムときたか。


「ラブホテルには話つけとくから、しばらくそこにいてくれ。あと飯食いたい時はここと酒飲みたい時はここな」

と顔の利く飲食店を紙に書いて手渡してくれた。


「まあ、即死させたるプランが出来たら連絡するよって2、3日待っとくように」


と言うことで俺はそのラブホテルに1人でしばらく生活することになったのである。


「即死させたる作戦」大丈夫かな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る