第155話 ヤクザにはヤクザ

俺は「ヤクザにはヤクザしかない」と直感で思った。


俺には清田さんという、大阪・十三を根拠地にしていた唯一のヤクザの知り合いがいた。


知り合うきっかけは、前にも話したが十三の焼き肉屋で「オール奢り」をやったときのことだ。


「オール奢り」とはもう一度説明すると、その店全員のお客さんに飯をおごると言う単純なルールである。


焼肉屋の中に若い衆を連れた清田さんがいたのだ。

店員から「客全員に奢る」と言うことを知らされると

「おもろいな!」

と大きな声がした。


声の主の清田さんがこっちにやってきて

「兄ちゃん、なかなか意気なことやるやんけ!」と言ってビールを注いで乾杯したのがきっかけである。


それ以降、馴染みになり難波によく飲みに連れてってくれた人物だ。


小柄だが恰幅のいい清田さんは、両手の小指は全部無くて、さらに薬指の半分もない。


だからよく「清田さんにジャンケンしたら絶対勝ちますよね」


「なんでや」


「パーが出せませんやん」

などと冗談を言って気安く接していた。


「太田はん、とにかくやくざ関係で困ったら俺んとこに来い」

といつも言ってくれていたことを思い出したからである。


俺の大脱走を知った中本一味は早速行動を起こすはずだ。

時間が無い。


「ヤクザに借りを作るとロクなことは無い」ことは重々承知であったが今は背に腹は代えれない。


俺の中で「非常事態宣言」が発令された。



ともかくタクシーが十三に着いた。


急いで俺は公衆電話ボックスに入り田主社長に連絡を取った。

「今日は木曜日だ、監禁されて6日経っているが田主社長どうか無事でありますように」

電話の呼び出し音が聞こえる間、俺は祈った。



「あ、社長!太田です。例の契約はどうなりました?」


「あー、太田はん、今ロンドンでっか?よろしいでんなあ」

相変わらず緊張感の無い声だ。


「十三です」


「十三?大阪の十三でっか?」


「はい。社長、実は今週ずっと中本に監禁されてまして連絡ができませんでした。奴らの話は全く詐欺話ですから金は払わないでください」


「えー!そんなこと言いましても月曜日に契約して、すでに残金のうち1億円を払いましたがな」


「万事休すか?」

しかし全額払ってないだけまだマシだ。


「残りの8億は太田さんのところに預けてある株を売って払おうと思ってましたからまだ払ってまへん」


被害は何とか最小限で止められそうである。


「いいですか、中本は詐欺集団でヤクザの兄貴を使って私を監禁してたんです。契約に私が邪魔だったのでしょう。で、何とか今逃げてきたところです」


「さよかー、大変だったんですな」

全く人事のような気の無い返事である。


「一体誰のおかげで、息子の出産すら立ち会えずに監禁されたと思っているんだ」

俺はおっさんに少しずつ腹が立ってきている自分に気づいた。


「とにかく、今後は中本からの電話は出ないでください。いいですね」


「なんかようわかりまへんけど、太田はんがそう言うならそないします」

取り敢えずおっさんの釘は刺した。


次に俺は清田さんの電話番号をプッシュした。

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