第127話 天女危うし

天女木下さんの朝一番の仕事は新人なので8種類ある新聞を整理して「新聞掛け」と言うところにぶら下げる仕事である。


この「新聞掛け」と言うのが置いてあるポジションが非常に微妙で我々男性社員が朝出社する時に必ず通るところに置いてあった。


しかもその反対側にキャビネットがあったので人が2人すれ違える位のスペースしかないところにそれは置いてあった。


この狭いスペースで木下さんは常に新聞を閉じる作業するときには必要以上にケツを突き出して作業を行っていたのである。


流石は天女だ。


人が2人しか取れないようなスペースでお尻を突き出されると、そこを通る我々は当然合法的に豊満なお尻を触ることになる。


彼女のセックスアピールと本当に仕事をしている状況とが微妙にどちらとも取れる絶妙な狭さであった。


もう俺はその時に神を意識した。

神様の配分なしではこのような微妙な空間は存在しないと。


そこで前述のようにみんなが毎朝、天女さんの胸や尻を触っては通過していくのであるが、ここで大魔神が立ちはだかったのである。


前述したと思うが40歳近くのオールドミス、小村主任と言う猫に似た顔の「お局さん」の出現であった。


そもそも木下さんが我々のセックスマスコットとなって以来、全女性社員が浮き足立っているのは分かっていた。


浮き足立つと言う事は、「私も触って欲しい」と言う願望と「あの子だけちやほやされやがって」と言う2つの意思が錯綜しているのが手に取るようにわかった。


小村主任は完璧に後者の方であると我々は考えた。


「新入社員の分際で、我々男性社員を全員手玉に取りやがってと」言う嫉妬の気持ちの塊のように見えたから。


翌日


あろうことか小村主任はただでさえ狭いその通路に木下さんと一緒に新聞かけ作業を手伝うようになったのである。


「先輩、新聞掛け作業は新人の仕事ですからいいですよ」


「いやいや毎朝貴方1人だから大変でしょう」

などと会話している。


このまま放置していると、天女のポジションは小村主任に奪われてしまう・・・


俺たちは正直迷った。


2人並んでいる女性の1人だけのケツを触ると言う行為が果たして人間として平等かどうか。

もう一つはそもそも小村主任は「触って欲しい」のかどうか。


うっかり触ったらある意味「虎の尾」を踏んでしまうのではないか、と言う危機感が我々支店内にまき起こった。


ちなみに言っておくが小倉主任は、悪賢い猫みたいな顔で背が低くて胸は小さいし決してナイスバディーではない。

しかしケツだけはでかかったような気がする。


そんなことが起こり、我々男性社員の中で緊急会議が行われた。

この会議は日頃の「どの銘柄が今後上がるだろうか」とか「支店のノルマをどう振り分けるか」と言う会議以上に白熱した。


「木下さんだけ従来のように触ろう」

という意見と

「いや我慢して両方触ってやろう」

という意見の対立である


結論から言うととりあえず「スケープゴートを立てよう」と言うことになった。


新入社員の藤原をまず明日の朝出勤時に「両方のケツを明るく触る」ことで、どういう反応が出るかで決めよう、と言うことになった。


名案である。


当然、藤原以外は満場一致でこの会議が終わったのは言うまでもない。



翌日


朝出勤した我々はみんな固唾を飲んで席に座っていた。


木下さんが新聞を抱えてやってくる。

少し遅れて小村主任の登場。


そしてついに藤原がやってきた。


奴の目の前に二つのケツがある。


スピーカーからは東京株式市場部からの「今日の寄り付き前の各社の動向」を大声で知らせる声が聞こえてきているが、今日はそんなものは誰の耳も入っていない。


緊張が走る。

「ごくり」と生唾を飲み込む音が聞こえる。


藤原はワザと明るく「おはようございます!」と大声で挨拶すると同時に二つのケツをパンパンと触って通過した。


「上出来だ!藤原」

心の中でみんなが讃えた。


すると満面の笑みで小村主任が「あ、おはよう!藤原くん」と今までに見たことがないような明るさで挨拶をした。


ある程度「大激怒」パターンを想定していた俺たちは

「なんやー、結局は触って欲しかったんやないかい!」

と胸を撫で下ろした。


いずれにしろ藤原は支店の危機を救った。


この日以来、俺たちは我慢しながら2つのケツを触った事は言うまでもない。


これも支店内の安寧と天女の確保のためである。

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