第123話 琵琶湖遊覧


琵琶湖遊覧と言ってものんびりと船で琵琶湖の風景を楽しむことではない。


ご想像通り、わが支店の業界用語である。


今までは馬鹿な飲み方の話をしてきたがそろそろ話題を次の「飲む、打つ、買う」の最後の「買う」に移りたいと思う。


当時はまだエイズなんていうオッカナイ病気は出てきたばっかりで、あまりメジャーではなかった。

だから性風俗に関しては今以上に危険が少なくおおらかだった。



支店内でため込んだ銘柄が大暴騰した時は全員の頭の中ではそろそろ日本地図の中の琵琶湖の絵が出てくる。


「大成建設 あと3円!」

「あと2円!」

「1円!」

「よーし全部売れた!約定!」


「ヨツシヤ、今日は景気付けに琵琶湖遊覧や!」の声に支店内がにわかに活気づく。


気の早いやつは、準備体操と称して腰を振る動作をしてレディーさんたちから苦笑されていた。


大体、我々支店の連中が「買い」に行く時は神戸などの近場を避けて、わざわざ琵琶湖の隣にあった雄琴を選んだ。


ここは温泉とトルコ(我々の時代はソープランドをそう呼んでいた)で有名な場所で、かならず景気付けの時は大勢で繰り出すのだ。


もう全員が祭り気分である。


決まったら我々は行動は速い。

電話で支店の前にタクシーを5-6台呼んで、「大阪から雄琴の往復」って言うと運転手は大喜びしてくれた。


それはそうである。

帰りも当然そのタクシーを使うから往復10万円は売り上げになる。

おそらく1日の売り上げはそれで充分間に合ったであろう。


しかも我々の心優しいところは、さらに喜んでいる運転手のお兄さんにもトルコをおごってやる。


ここ大事なところである。

当時バブルの証券マンの慣習としては「良いことがあったらみんなにおすそ分け」と言うのが決まりであった。


前述した飲み屋の「オールおごり」もその内の一つである。


童話の「花咲か爺さん」をイメージしていただきたい。



さて、股間を押さえた客を乗せたタクシーは2時間ほどで雄琴に着いた。


雄琴につくとタクシーはスカイラークだったと思うがファミリーレストランの駐車場に止めて、まずは全員で夕食を食ってから戦闘態勢に入る。


もちろんタクシーの兄ちゃんも食事から一緒である。


そこで目の前にある何十軒と並んでいるトルコに入っていって各自の戦闘が始まる。


そして終わったやつから順番に、同じファミレスに戻ってきて後発組の帰りを待つ、と言う非常にシンプルでシステム化された大人の遊覧であった。


当時は、全員が20代の若者ばかりだったもので、いつも汚いくそじじいばっかり相手にしているトルコの姉ちゃん達は大喜びしてくれた。


ましてチップも弾んでやったこともあるので、我々証券マンと言う人種はここでも非常にありがたがられる存在であったのだ。


全員が戦闘を交え、スッキリした顔でファミレスでビールを飲んでいるとタクシーの運転手さんたちも満足げに帰ってくる。


開口一番「いやー、皆さんのおかげで今日は本当にいい思いさしてもらいました。夢のようです。ありがとうございます」


「ラッキーのお裾分けやからな。かまへん、かまへん。そのかわり帰りは安全運転で頼むな」


「わかりました、任してください!」


スッキリした顔をした運転手さんの運転でわれわれはまた激闘の地、大阪へ帰っていくのであった。

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