第82話 医者攻略作戦 1

法人攻略と違って開業医の攻略作戦はまた特別な技術を要する。


基本的に当たり前の話であるが医者は理系の人間であり「超」がつく理論派であるのは言うまでもない。


であるからその対極に位置する何の理論の持ち合わせもない証券マンが正面からぶつかり落とすのは相当なテクニックと困難が要求される。


ただ我々がラッキーなことにここに医者攻略の盲点が1つだけあった。


この小説を読んでる医者の方がいたら非常に申し訳ないが黙ってお聞きして欲しい。

医者という人種は株屋を使って「株で儲けたい」と言う側面と一方で「節税をしたい」と言う2つの側面がある。


「株で儲けたい」と言うのは誰でも当たり前の話であるが株を使って「節税をしたい」、ないしは「相続税をなんとかしたい」と言う発想は年収何千万円である医者ならではである。


とうてい一般人には思いつかない。


ここが攻めるポイント。


当然自分たち証券マンは年間何千万円と言う金額を稼いだこともない人種なのだがここの部分はよく理解しておかなければならなかった。


ます、医者の攻略時間は決まっている。

例外なく午後2時からである。

いわゆる「休診タイム」と言うやつである。


これ以外の時間を狙って行ってもそもそもまず会ってもくれない。


この時間を狙って多くの証券マンは押し寄せるのであるが他社の営業マンに負ける訳にはいかない。


俺は理論派の先生たちを攻略するいい方法を思いついた。


まず開口一番

「先生、株で損しませんか?」

と吹っかける。


すると

「馬鹿野郎、株は儲けるためのもんだろ!なんでわざわざ損しなきゃならないんだ?」

とごくごく当たり前の反応が返ってくる。

これは想定内。


そこで

「いえ、そもそも株はゼロサムなんですよ。当然先生もそれは理解されてるでしょう」と切り返す。


「当たり前だ!株がゼロサムゲームって事は俺でも知ってる!」


「それでは先生は敢えて損してください。同じ分だけ息子さんが得すればどうですか?」


一休さんのような問答に持ち込めばこちらのものである。


頭がいい人であればあるほどこちらの作戦にはまる。


「先生の財産はそのまま息子さんに行きますよね。」


「うんそりゃそうだわな」

この一言が聞けたらいいこっちの作戦にはまった証拠である。


「つまり切り離して考えると先生は株が下手な人で損する係、反対に息子さんは株が上手な人で得する係、ただそれだけの話です」


と謎をかけてやる。

もともとが頭の良い人間であるから話の要点を捕らえて、くるくると頭の中で回転が始まる。


しばらくすると計算が終わったのであろう

「チーン」

と音がして興味深く質問してくる。


「なんか面白そうな話だな、時間はあるから詳しく話してみろ」

と身を乗り出して聞く態勢に入る。


だいたいここまで行けばしめたもんだ。


次回に続く

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