第69話 新人はいかにして成長するか 1
「レディさん攻略」
前述の通り毎日100件ノックを乗り越えた新人たちの次の関門はこれである。
これをを首尾よく乗り越えることができたならもう一人前の証券マンである。
「レディさん攻略」の重要性と関門突破の方法を説明したい。
証券マンは何度も言うように新規顧客に対して連日100件アタックしている。
ということは朝から晩まで外出状態なので当然自分が会社にいることがない。
当たり前である。
であるから飛び込み先でいい感触を持った客は、自分が会社不在中に電話がかかってくる確率が高い。
電話がかかってくると言うことは「顧客になりうる」状況である。
釣りで言えば浮きが「ピクピク」引いている状態である。
その不在中の電話の対応をしてくれるのが「レディーさん」と呼ばれる店内の女の子達である。(中にはとうてい「子」と呼べない方も何人かいたが・・・)
彼女たちは来店客専門であるから証券マンとは違い毎日が店内のカウンターでの仕事である。
余談ではあるが証券会社は「客からの電話は1秒も待たすな!」というのが鉄則なのでレディーさんは電話が「リン」と一回鳴っただけで「はい!○○証券大阪支店です」とすぐに取らなければならない。
もし何回も「リンリン」と鳴らしたら上司にかなり怒られていた。
この早業は当時のテレクラも真っ青である。
ともかく新人はこの「レディさん」によく思われないと自分の不在中の電話をまともに応対してもらうことができない。
この状態如何によってはせっかく獲得した客もスルリと逃げてしまうことも往々にしてあったのだ。
釣りに例えるとせっかく岸の近くまで上がってきた大物の魚が網を差し出す瞬間に瞬時に逃げてしまうような事態が発生するのである。
俺も100件のノックから帰ってきたら自分の机の上に「レディさん」の書いたメモ用紙が貼り付けてあるかどうかが毎日楽しみであった。
ただ単に「○○さんから電話がありました」というそっけないメッセージの時もあるかと思うと「毎日の外回りご苦労様です。不在中○○さんから電話がありまして、株式の件と投資信託の説明をしておきました。先方は非常に興味を示されて明日来店されるということです」
という非常に暖かい対応つきの場合まで様々である。
おまけに文章の最後に小さなハートマークが書いてあった日には飛び込み営業で辛い思いで支店に帰った時なんぞは思わずホロッと涙が出てしまう。
いずれにしても新人は後者のような対応を「レディさん」に期待するので常にこの「レディさん」に対しての点数稼ぎが次の優先作業となってくる。
支店に帰るときにシュークリームなんぞを買って「レディさん」に渡すやつもいた。
「レディさん」を飲みに連れて行っておごりまくるやつもいた。
証券マンによって作戦はさまざまである。
俺の場合は約30人ほどいた「レディースさん」を一人ずつ攻略していては時間効率が悪いと判断して一番年上の小村さんというオールドミスの「レディーさん」(この方がまるで社内の「牢名主」のような存在であった。悪賢い猫のような顔をしていてちょっと怖い・・・)に集中して化粧品、映画のチケット、ケーキやお菓子などを送りまくって短期間で攻略に成功した。
おそらく小村さんは俺が個人的に好意を抱いて「ラブ・アタック」をかけてきていると勘違いしたはずである。
事実やばい関係の一歩手前までいったことがある。
俺も捨て身の総攻撃である。
前述の大溝課長代理と小村主任は「前門の狼、後門の虎」である。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」作戦発動!
で、見事「牢名主」を攻略したら当然その下に配属されている女の子達には自然に「太田君優遇法令」の通達が出たのであろう、常に「レディースさん」全員からいい対応を受けることができたのでこれは非常にありがたかった。
小村さん本当にすいませんね。
「牢名主」さんの名前を利用させて頂きまして・・・
なにぶんこっちは急いでいたもので。
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