第68話 毎日100本ノック!
午前7時
「はい太田君、ご苦労様。今日の名刺100枚ここに置いとくよ。しかし毎日大変だね」
総務の男性社員がこっちの辛い気持ちも知らずに毎朝机の上にご丁寧に名刺を置きにやってくる。
これが日常であるしかも100枚である
「はい!営業課長の命令ですから仕方ありません」
「しかしよく毎日100枚づつ使い切るね。感心だね全く!」
「ええ、それだけの人に毎日会って話をしているということですよ」
「まあ無理せず、体に気をつけて頑張ってね」
「はーい!じゃあ行ってきまーす!」
毎朝の儀式である。
あたりまえの話であるが新人は顧客がゼロである。
つまり株の売買をする相手は一人もいないという状況でに入社をするであるから当然自分で顧客を探さなければならない。
その作業は上記のようにいたって単純である。
毎朝名刺を100枚もらう。
それを夕方までに違う名刺100枚と交換して帰ってくる、という単純な作業である。
ただそれだけである。
簡単に言うが要するに「100人の経営者に毎日会って名刺交換してこい」という非常にシンプルな指示であった。
で、実際毎日の営業スタイルは支店から歩いて会社を一件ずつ回る。
方法は単純、歩いていて会社の看板が見えたら入っていき挨拶をして、また別の会社の看板が見えたら入っていく。
この同じことの繰り返しである。
ある時こういうことがあった。
夕方ふと気がついたら駅で7つ程の距離(約25km)を歩いていた。
よくゴルフの時にもしボールがなくて18ホールのあの長い距離は歩けるかというのに似ている。
当然もう靴なんかは一か月で底がボロボロ!
ひどいものであった。
雨の日は作戦を「垂直移動」に切り替えて高いビルの最上階までエレベーターで上がり一階づつ降りてそれぞれの階にある会社に声を掛けて行った。
高層ビルは本当にありがたかった。
また、行った先の対応は実に様々で悪い時は「株屋なんかに用はない帰れ!」と水をかけられることもしばしば。
よほど大損をこいたか虫の居所が悪かったのであろうと諦めて出ていく。
こんなこといちいち気にしてたら一日100軒回れないのである。
学生気分も吹っ飛んで神経もだいぶ鍛えられたと思う。
また悪い話ばかりではなく、たまにはいいこともあって
「あんた今日どっから来たん?」
「あ、東です」
「そうか、今朝のお告げでは東に吉ありと出とるから何か買ってやるわ。これも何かのご縁やさかい」
とにかく株をする人は何かにつけて縁起を担ぐものであるのでこういうラッキーなこともたまにあるのだ。
100軒歩いて1件客になればそれでOKであった。
これを1年続けると360人の顧客ができるからである。
だいたいこの計算どおりにほとんどの証券マンは1年間で300名の顧客を作って2年目以降のノルマ地獄に備えるのであった。
教訓
証券マンも毎日100軒歩けば客に当たる!
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