第23話 支店数が物言う仕切り玉
5月26日 午後3時
「課長、本店株式部から電話です」
「おう、どうした」
「デイーラーで住友鉱山500万株とってます。何とか営業体で消化お願いします。またいい玉まわしますから」
「いったいうちで、いくらやらねばならんのですか」
「100店舗ですから1店舗あたり5万株で結構ですのでよろしく!」
「仕切り」という単語自体もう読者自身もよく理解していただいてるとは思うが、ここでもう一度整理しておこう。
「仕切り」とはあくまでもその担当者の相場感で「上がるであろう」と思わしい株を相当単位数で寄付きか昼一番で買い付け、思惑に反して下がってしまった迷惑この上ない株の固まりの事である。
ここで大事な事はあくまでも時価よりもウンと高い値段で買ってしまっているという事である。
つまり何も今買わなくても明日買えばゆっくり安いところで拾えるという事である。
それが本店株式部で何百万単位、支店で百万単位、それぞれの課で何十万株単位で一度にやるわけであるので、時々本当の顧客の需要だけでの売買であれば一日の株式出来高というものは一体いくらあるのかと考えたことがある。
おそらく実需だけであれば五分の一くらいではあるまいか。
いずれにしても、そんなリスクはわかっていても「仕切り」をやるメリットは二つあって一つは、もし思ったように買った株が上がって上の指し値で売れた場合いわゆる「即転玉」が出来上がり、迷惑をかけた客などにお詫びとして持っていけるし新規開拓用にも使えるからであり、もう一つはそれによって手数料の読みが確定できるからである。
もっともよっぽどすべての株が上がり続ける相場か、担当者の相場感がピッタリあたるかしなければ、その目論み自体が一転してやっかいな玉になるわけであるので、よほどの相場感と自信とクソ度胸が必要となってくる。
いくらその担当者にクソ度胸があっても、最悪の場合の事を想定する必要があるわけでその根拠として証券会社自体の支店数がものを言うわけである。
つまり100の支店があれば安心して百万株単位で仕切れる自信があるのである、最悪はこのケースのように何万株単位でバラしてはめこめばいいだけであるから。
大手証券の強みはこの支店数の裏付けである。
「なんぼなんでも、仕切りは一日最高6回までやなあ、体がもたんわ・・・」と言っていたクソ度胸の固まりのような営業課長が実際に存在していた。
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