第15話 大きなお世話の成り行き買い
4月20日 午後1時
「太田くんか、わしやけども、今日1050円で買いの指し値しとった三井不動産あったやろ。今、1070円に下がってきたから、指し値もう10円下げとって。悪いなあ」
「社長、本当にこの株が上がると思っているなら何で指し値するんですか。どうせどかーんと上がると思ってるんでしたら、このへんの10円や20円は関係ないじゃないですか。男だったら堂々と成り行き買いでいきましょうよ。社長らしくないですよ!!」
「そうかあ指し値は男とちゃうか、よっしゃまかせるわ成り行きにしとって」
「さすがは社長、ご英断ありがとうございます。出来値はまた報告いたします」
「よっしゃ、よっしゃ」
元来、株の売買に男も女も関係ないはずであるが、投資家にはプライドの高い人(特に社長)が多いらしく、けっこう「男らしくない」と言われるとグサッとくるものらしい。
よく「女々しい社長は社長らしくないです!ぼくはそんな社長は見たくないです!」と言ってかならず注文をいただいていた、ある鉄工業の社長を思い出す。
この場合なぜ証券マンが「成り行き」注文にこだわるかというと、要は自分の手数料の数字が読めるからであって決して「男らしい」とかそんなロマンめいた発想からではない。
要は銭勘定がはっきりできるため、だけである。
心理的に一番もどかしいのは、指し値が入りそうになるとどこで見ているのかサッと電話してきて買い注文の値段を下げる客である。
ほぼこの客の注文は「できるな」と読んで、くだんの手数料申告をしているわけで値段を下げられるとおもわぬ計算違いとなる。
客もよく知ったもので指し値変更の時だけ女子社員に連絡するテクニシャンもいた。
これはたちが悪くてこっちは本当に値段が入ったと思っているだけに後でそれを女子社員に聞かされると、即死状態になりしばらくたたずむ事になる。
よく3時くらいに株注ボックス(株の注文の出来、不出来の結果がわかる伝票が入った箱)の前で化石のようになっていた営業マンを思い出す。
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