第11話 値段のあって無いワラント


4月12日  午後5時30分


「おい!大田!日本航空のワラント、ロンドンではどうだ?」


「値段はチューリッヒと変わってません!」


「東京マーケットで買った26ポイント100ワラント、ビット30でクロスふ れないか?」


「30はきついですが、28なら何とかいけます」


「よし、それで一回ふってまたその玉を30でふるようにしろ。そしたら2回転分の ワラント手数料ができたうえに即転の出来上がりだ」



「ワラント」とは聞き慣れない単語なので説明すると「新株引き受け権付き社債」の事で、この最後の「社債」という単語にほだされて散っていった投資家の数は計り知れない。


このワラントの買いの事を「オファー」、売りの事を「ビット」と呼ぶ。


これがまた、なかなかハイカラな言葉で結構、支店内で大きな声で言う時などカッコいい。


事実、ワラントを大きな声で売買してる姿は女性社員からの注目の的であった。


彼女たちの目にはハートマークが見で取れた。


それはさておき、信じられない事であるがワラントの値段というものは日経新聞にも載っていないのである。(もっとも載せられては証券会社が困るのだが)


一般に日経新聞に載っているワラント価格は、分離型ワラントの社債部分、つまり安全な方の価格である。


これを「安全君」と呼ぼう。


当世問題になっているのは、切り離したあとのワラント(新株引き受け権利)の事である。


これは「超危険君」

地雷を想像して欲しい。


昭和60年代に「ワラントの分離」というものがスタートしてからは、専らこの危険なワラントばかりが売買の対象になってきた。


「超危険君」は分かりやすく言えば時限爆弾付きのババぬきゲームと考えてもらえばよい。


さらに悪いことにそのババぬきのカードの数字を本人には全く知らされず、参加者全員のカードを知ってる人(証券マン)によって時折数字を知らされるだけの非常にスリリングなゲームである。


時限爆弾というのは多くのワラントは、5年物か7年物で、買った日から残りの期間の間に次の人に売らずに持っておれば最後には価値が0になるからである。


ただしいい面もあって、株と連動しているので株が上がれば、その約3倍のスピードであがっていく性質も持っている。(これをギアリング効果という)


当時は株が猛スピードで上昇した時であるから、当然このワラントもぐんぐん上がっていった。


上昇している時のワラントほど乗り心地のいいものはない。


しかし一旦株が下がりだしたら、ワラントの下げもまた「3倍」でやってくる。


この「3倍」という甘い言葉にひかれてほとんどの投資家がワラントの性質も知らずに泥沼に突っ込んでいったのである。 


現在、ほとんどのワラントが、期限切れで価値が「0」になっている。


ご忠告!


ワラントは「万馬券」みたいなもの!


なくなってもいいお金で張ってね!

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