顔が良すぎる第一王子様、不美人枯れ木女の私をお選びです

マキナ

プロローグ

「おお、見た通りの不美人だな。悪くない。むしろ、良い!良いぞ!」


 人間、人生何が起こるか分からないとは良く言われたもので。大体は生まれた際の身分で行き先が決まる残酷な運命があるからこそ、その言葉が映えるのだと思う。

 貧しい育ちで生まれ、そのまま底で亡くなる者。高貴な育ちで生まれ、大往生する者。そうかと思えば、貧富の差をものともせずに幸福の階段を駆け上がり、下剋上や玉の輿という逆転劇を見せる力がある者。

 誰しもが、幸福になる権利はあれど。幸福から選ばれる権利はほんの一握りほどしか無い。


「枯れ木のような女とはよく言ったものだ。肉も削げ、腕も枝のようじゃあないか。拷問にでもあったか?本当に俺と同じ量の内臓が詰まっているのかも怪しいな」


 だからこそ、人は過度に夢を見て妄想に耽る時間というものを持つのだろう。その最たる具現化が、物語を綴った本だ。

 最近の流行りは何だったか…落ちぶれた貴族が平民と結ばれたり、平民が成り上がって貴族と結ばれたり、現実味があまり無いラブロマンス物が人気だったような気もする。冒険活劇とラブロマンスは、この国で本を買える程度に金を持つ者なら中身は見ないまでも有名な分野だとぼんやりと根付いているだろう。


「いいな、いい。更に奇跡も持たない無能だと聞く、より良い。お前がいれば俺がより一層輝く、実に良い仕事をしてくれた、」


 ……ただ、まさかそんな、小説のようなことが自分の身の上に起こるとは夢にも思わないだろう。

 今日になれば、幸福と書いた強引に、無理矢理釣られて連れて行かれてしまう等と、誰が考えることだろうか。


「喜べ。お前の醜さは、俺の心の醜さに見事選ばれた!ああ、安心しろ!愛する努力は生涯賭けて行おう、その代わりーー今日をもってお前は、いずれ俺の正妻となる婚約者だ」


 目の前では、地上にいる星みたいに輝かしい存在感と美貌を持つ青年が、いたく自分を見て大袈裟に感動されているご様子。

 あまりに現実から剥離し過ぎた話が舞い込むと、返って冷静になれるものなのかもしれない。妻としての扱いは保証する、と濁りも無い目で言うのだから。全くこのお人と言う方は、無茶苦茶な分どこか真っ直ぐとした性格をされている。

 よろしくお願い致しますと、庶民の礼儀しか知らないその身でぺこりと頭を下げれば。風に吹かれて揺れる弱い木だと面白がって頂けたよう。私の使い道が、内職以外にもあったと教えてくれているみたいで。


「ではこれよりお前の身辺整理に着手しようではないか!疾く急げ、何なら俺も着いて行く!その方が面白そうだからな!」


 あまりに強引、けれど私を選ぶ態度に、迷いも躊躇いも一切無く。横暴で、そのまま俺についてこいと言いながらも横にいて手を引いてくれる。そんな未来図をうっかり想像してしまいそうな程の人柄。

 まあ、ただ一言申し上げるのであれば。趣味が悪いと誤解されても知りませんよ、と。それだけであろうか。


 風に飛ばされて行きそうな程、瘦せぎすで抱き心地も悪いような、良いところなしの女の私。

 それを、私利私欲で選んだこのお人、とんでもないことに、


「ところで我が妻よ。時期に妃となることが決まったことに、何か感想は?」

「ええ……?いや、まあ。貴方の思う通りに使って頂ければ、それでいいとは思うのですが」

「無欲か、それも良し。何だ何だ、実に扱いやすいじゃあないか!妃教育もこの俺手ずから行うから心配するな!」


 ………一国の主を継ぐ者でございます。


 庶民から突然妃候補になってしまったこの身の上。遠慮なく肩を叩いて抱き寄せてくる顔面美貌兵器な王子様を横に、人生がこんなに変わることがあるかと未だに現実を信じられない私は。波乱万丈を予期する今現在から、少しだけ前に意識を飛ばしかけるのでありました。

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