第25話 ホテル・ウラノス
「とまぁ、あんまり自慢できた話ではない。はっきり言って恥ずかしい話だ。他人に任せずに俺が徹底して施工管理をしていたら自分の家族を含めて大切な多くの人命を失ってしまうことなく済んだんだ」
「そうですか・・・秀さんにそういう過去があったとはね」
「あの事故は俺の中ではかなり重いものなってしまった。しかし坊主も同じようなもんだろう?神戸の震災の時はマスコミと気象庁ひいては日本国政府がお前の言うことをまともに信じていたら6500名の半分の命は救えたかも知れんからな」
「そうなんです阪神大震災は僕の一生の中の1番大きな汚点です。まあ、今更悔いても6500名の命は戻ってこないんですけど・・・」
傍でこの会話を聞いていた秘書のテティスとポーラはこれほど能力が高い日本人を日本国政府はなんともったいない粗末な扱いをしたのかと感じいったと同時に2人の不運な人生を哀れんだ。
「なあ坊主、すまんが少し付き合ってくれ」
「え?どこに行くんですか?」
「ホテル・ウラノスだ」
「あの労働者たちが泊まっているホテルですか」
「そうだ新しい橋梁建設にぜひとも日本のあの労働者たちの力が必要なんだ。幸い頭領のゲンさんがいるから彼らをうまくまとめてくれると思う」
「そうですね。西成の労働者連中はゲンさんを中心にまとまりはいいし、腕のほうもたしかですからね」
「では決まりだ。俺の車の後についてきてくれ」
その後真っ赤なカウンタックと黒いリムジンは遠くの浜辺に見える40階建てのホテル・ウラノスに向かっていった。
※
わずか5分ほど走るとヒペリオンで1番格式が高いとされるホテル・ウラノスの正面玄関に着いた。
さすがに五つ星ホテルである。
よく教育されたボーイが二台の高級車のキーを預かった。
周りの建物から隔離された広大な敷地には27ホールのゴルフ場が併設され贅沢な造りの本館とプライベートビーチがあり海外からの富裕層の観光客に十分に対応できるような設備が見て取れた。
ホテル・ウラノス自慢の海岸に面したプールでは100人を軽く超える西成の労働者たちがプールサイドにワインやウイスキーを置いてバカンスをくつろいでいた。
その横を通る相原と北川に気づいたのであろう
「おう!あれは秀さんじゃないか?」
「北川の坊主もいるぞ!」
「ちきしょう!いい姉ちゃん連れてやがるな」
みんなが2人を取り囲んで懐かしそうに声をかけた。
「やあ、みんな久しぶりだな。どうだ竜宮城気分は?」
「いやー秀さん。あんなみじめな貧乏暮しがまるで夢のようだぜ」
「夢なら覚めないで欲しいな」
「まったくだ」
「あはははは」
「そうか、みんな元気でやってるようだな。ところでゲンさんは今どこにいる?」
「ああ、親方は今海岸の方で釣りを楽しんでるよ」
「そうかい、ちょっと行って挨拶してくるよ」
相原は2人の秘書と北川を伴って浜辺のほうに歩いて行った。
海岸の端にある岩場では労働者たちが言ってたようにゲンさんが釣り糸を垂れていた。
「やあ、ゲンさん。久しぶりだな」
「おおこれはこれは秀さんと北川の坊主か!」
赤銅色に日焼けしたゲンと呼ばれた男がこちらを振り向いて打ち出の小槌のような太い腕を振る。
「元気そうだな」
「お互いな」
「実は今日はちょっと頼み事があってきたんだ」
「なんでぇ、水臭いな。秀さんの言うことならなんでも聞くぜ」
「実は来月からあの岬とこの海岸に大きな橋をかける計画が始まる。その設計の責任者として俺がなったわけだが、ローカルの労働者だけでは技術的に心もとない。そこでゲンさんと一家の力を貸してほしい」
「なんでぇ、そんなことか。ちょうどみんなもそろそろ贅沢ざんまいに飽き飽きしてたところなんだ。しかも働いて体を動かした方が健康にも良い。俺に全部任しとけって。何も心配するな」
「ありがとう。その一言を聞いて安心した」
「水臭いぜ、秀さん!」
その会話を横で聞いていた北川は秀さんとゲンを頂きとする労働者たちの深いつながりを感じて羨ましく思ったものである。
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