第22話「日本のランボー」本間照彦

初出勤の日から1週間がたった。




9人の中で1番行動が懸念された本間もこの1週間は陸軍の訓練所において彼が1番得意とする近接戦の格闘の仕方をヒペリオンの兵隊たちに伝授していた。




ヒペリオン陸軍訓練所は海岸沿いの空港の近くにあり時折潮の香りが鼻をかすめる。




訓練所の広い敷地の片隅には本間のたっての希望によって建てられた今回の航海中に貨物船内の戦闘で死んでいった27名の若い兵隊たちの慰霊碑が建てられていた。




毎朝本間はこの慰霊碑に向かって手を合わせて訓練を開始するのが日常であった。




「知らぬ事とは言え申し訳ないことをした。どうか安らかに成仏してくれ」


膝まづいて手を合わせた本間はそう言って胸のポケットからタバコを1本取り出して火をつけようとする。




傍らに立つ戦闘服姿の秘書のイオがライターを差し出した。




イオも優秀な女兵士として訓練には必ず参加している。




慰霊碑にタバコを供える本間の姿をイオと訓練生は背後からじっと眺めていた。




今日の授業は本間のもっとも得意な夜間における単独攻撃をやる予定である。




所持する兵器はナイフだけで夜間に相手にいかに肉薄して敵の中枢をマヒさせるかという項目であった。




16名全員が整列して黒いバンダナで目隠しをしている。




「さー、目隠しをしたままこの建物内に入り敵を駆逐する作戦だ。ちなみに敵は俺1人だ。俺も当然目隠しをしているから遠慮せずにかかってこい」




「は!」


と、小隊は本間の待ち構える建物に各入り口から入って行った。




闇夜の行動は本間のもっとも得意とするところであった。




1時間後




全ての兵士の喉には背後から襲う本間の模擬ナイフが着けた赤いマークが刻まれていた。




16対1の戦闘は本間の一方的な圧勝である。




「あかんなー、ホンマやったら今日は全員即死やでー!小隊全滅や」




全員がいつの間につけられたわからない首のの赤いマークを指で確認している。




「ミスター本間、どうすればそんな簡単に目に見えない相手の居場所がわかるんですか?」




「まずは夜間戦闘は鼻と耳で見る」




「はあ、目ではなく鼻と耳で見るんですか?」




「そうゆうことや。次に勘や、戦闘は全て勘や。これを養うには実戦しかないんや。夜中に大好きな姉ちゃんのところに夜這いに行くと思ってやれ。家のモノに見つかったら袋叩きにあう覚悟でやるのとおんなじや」




「なるほど!闇の中の姉ちゃんか!」


「それはいいや」


「あははは」




本間の豪放磊落な性格はすべての兵士から好感を持たれた。


「日本のランボー」と呼ばれる超一流の腕を持つ本間が傭兵をやめたのには理由があった。








1988年 ウガンダ




内戦が続くウガンダで傭兵の本間に与えられた作戦内容は政府軍のたてこもる村の通信設備をおさえた後の人質になっている味方の救出であった。


救出する味方の数は3名。






月の出ていない漆黒の闇夜の作戦で、本間はナイフを口にくわえて建物の侵入にやすやすと成功した。




高いフェンスをよじ登り地雷原を慎重に突破して建物にたどり着くまでにすでに5人の歩哨ののどをかき切っていた。


もちろん音は一切立てない。




建物の2階の廊下を匍匐前進で進んでいる時、ふいに背後で足音がした。




本間は振り向きざまに本能的に背後の影にナイフを投げ付けた。


もちろん外すはずはない。




「ドサッ」と人が崩れる音がしたのを確認して、目標の通信室に入り通信兵の首を背後からへし折り、無線器の電源と機械設備を手際よく破壊した。




次に人質の救出に向かうため階下に戻る時にさっき倒した兵士の胸からナイフを引き抜こうとした時にそれがなんと兵士ではなく10才ほどのあどけない黒人の少女である事に気付いた。




設備を守る宿直の兵士に水と食料を持って来ていたのであった。


真っ赤な血を流して倒れた少女のまわりに水差しと果物が散乱していた光景を目にして本間は愕然とした。




「悪かった・・・オレは今まで何人も人を殺してきたが、兵士以外の人間を殺ったのは今回が初めてだ。生まれて初めて人を殺したという意識を感じる・・」




本間は目を見開いたままの子供の亡骸に手を合わせた。




階下の人質をなんなく救出した本間はこの作戦が無事終了したのを機に傭兵を辞める決意をした。




傭兵のならわしで自分の膝を打ちぬこうとしたが、どうしても本間にはそれが出来なかった。




何の罪も無い子供を殺した罪に苛まれた本間は大阪の西成に身を投じたのであった。


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