第6話 赤道通過

「赤道通過」

 兵学校でも日曜日、祭日などの休日はありました。

その前の日になると1号生徒から4号生徒までが一つの班をつくり学校からカッターを借りて江田島の近くの島までミニ航海をします。

 もちろん生徒とはいえ船乗りの卵ですから事前に海図を見てどの島に行くか、食料はどうするか、テントや寝袋の手配はだれがするかなど準備は万全にして行動計画表を学校側に提出してから許されるのです。

 島に着くと、今でいうキャンプファイヤーを囲んで、持ってきた飯盒でご飯を炊き、野菜や肉、海で釣った魚などを調理して全員で食事をした後、星空を見上げながら流行歌を歌ったり、将来の夢や故郷の話、近所の女の子の話などをして朝まで語り合ったものです。

 

ここではもはや学校内の先輩と後輩という関係はまったく無く、ただ星の下で語り合う人間同士という関係で心の底から思っていることや考えをお互いにぶつけあったものです。

 その行きと帰りに必ずカッターで通過する小さな海峡があります。

学校のある江田島の沖合いにポツンポツンと1000メートル間隔で赤い浮きが浮いていました。この浮きと浮きの間を結んだ眼に見えない線を我々は「赤道」と呼んでいたのです。

 実際に遠洋航海などでは赤道を通過するときには必ず船の上で「赤道通過祭」というお祭りをするそうですが、我々はこの小さな「赤道」を越えるときには必ず「赤道通過!」と大きな声で叫びます。

この意味はこれから以降は1号生徒から3号生徒までが学年の隔たり無く無礼講で接することができるというルール変更の合図なのです。

 また帰りは逆で同じく「赤道通過!」の声がかかるとまたルール変更で学年の上の言うことを絶対聞かねばなりません。つまり無礼講の終了を意味します。

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