~ 第1話 模擬戦闘試験前 ~
見渡せば、荒廃した世界が続く。
崩れたビルに、無人と化した都市。
灰色の空の元には、草木が1つも生えていない大地が広がる。
しかし、1つだけ奇妙な物が存在している。
それは、高さ100メートルの壁で覆われた別世界。
外の朽ち果てた建物とは違い、そこには真新しい建造物が立ち並んでいる。
そして、その中枢には、巨大なタワーが
その頂上で、何やら物思いに
「やっぱり、何も飾られていない方が好きだな」
最近、彼は気が付いたらよくここに来て、空と地上を眺めている。一人になりたいわけではない。
何故か、この場所に導かれるように来ていたのだ。
青年は、随分と長くなった茶髪を、ゆらりと風に
海のように青かった空は、今では灰色の空へと成り果てた。
そして、地平線上に見える陸地には、ビルや建物が微かに見える。
だが、それらは崩れ落ち、過去に都会と呼ばれていた場所は、今では廃都と化している。
「……もう、1年か」
何故ここに来ていたのか、青年は今になっても分からない。
ただ一つ分かることは、この空や土、風や雲など、姿形がどんなに変わったとしても、あらゆる物が愛おしく見えてしまうということだ。
1年前──
西暦2050年。
死後転化ウィルス。
通称『END』が地球上に降り注がれ、世界のおよそ半分の人類がウィルス発症者となり、絶命した。
そして、最悪なことに、絶命した人間達は『ENDS』と呼ばれる化け物と化した。
ENDSは、人間と似ても似つかない容姿をしており、とてつもない身体能力と、硬い表皮を持ち合わせていた。
それゆえ、重火器等の通常兵器ではまるで歯が立たず、すぐに世界は混乱を極めた。
結果、発展途上国から先進国まで、
日本も、過去に平和主義を
壊滅的状態だった。
そして、その状態を変えようと立ち上がったのが、ある巨大組織。
疾病対策機関。通称『CDA』
彼らは唯一ENDに対抗できる
救助された人々は、そんな彼らを『救助部隊』または『希望の部隊』と呼び、英雄視している。
中には彼らに従い、人々を助けようとする者達も現れた。
しかし、日本にはまだ沢山の人々が取り残されているのは事実。
その為、救助した人々の中から有志を募り、新たな救助部隊を数多く編成する。
そして、更なる救助活動を展開させるのが、今の日本の目標であり、希望でもある。
2人も、その希望に繋がる1歩をようやく踏み出した。
「──おい、シュウ」
鋭い声音だが、どこか暖かみのある声。
シュウと呼ばれた青年は、聞き慣れた声を後ろから掛けられ、ゆっくりと振り返る。
「あぁ、サイハか」
凛とした声で、シュウはサイハという青年に応える。
そこには黒髪の、シュウと同い年と見られるサイハが、気だるそうに立っていた。
「そろそろ俺達の出番だ」
「分かった。すぐ行くよ」
黒髪の青年。サイハは、シュウの体を見て唸る。
「それにしてもシュウ……お前、またたくましくなったよな」
茶髪の青年。シュウは、サイハに指摘された体を見て、苦笑いする。
確かに、サイハに指摘された体は筋肉質で、とてもたくましい。
「まあね。でも、着痩せしてるんだけどな」
「それでもかよ」
二人は軽く笑い合う。
少し間が空き、同時に頷くと、CDAが所有するトレーニングルームへと移動する。
訓練から1年。
サイハとシュウの2人は、1年間、みっちりと訓練を積み重ね、年に1度行われる卒業試験に参加した。
1年間だ。
長く感じる者もいれば、短く感じる者もいる。
2人は前者。
あまりにも長い時間だと感じた1年だった。
何故なら、2人を突き動かす物が、他の訓練兵とは比べ物にならないからだ。
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