第8話 ドラゴンを止めるな!
「畜生……何でこんな事に……」
木棺の中、夥しい数の花に囲まれて眠る少年。
頭に巻かれた包帯が痛々しい……彼はもう二度と目を覚ます事はない。
(ねえ知ってます? お子さんの死因はビルの屋上からの飛び降り自殺なんですってよ?)
(まあそうなんですの? お気の毒に…)
喪服を着た女性たちが俺の後ろの方でヒソヒソ話をしているのが聞こえた。
馬鹿な!! アイツが自分の意志で自ら死を選ぶはずがない。
俺には思い当たる事がある……絶対このままにはしておかない……。
そう決意して俺は拳を強く固く握った。
「はっ……!?」
目が覚めると同時に俺は首をもたげた。
どうやら夢を見ていた様だ。
しかしあれは人間の葬式の光景だった……まさか俺の前世に関する記憶か?
夢あるあるだが、夢を見ている時は内容を鮮明に覚えているのに、目覚めるとその記憶はあっさりと消えてしまう。
え~と、あれは誰の葬式で、俺は何に対して怒っていたのか……?
記憶の欠落があって朝からモヤモヤした気分だ。
「きゃあ!! ちょっと誰か!! 誰か来て!!」
耳をつんざく悲鳴に似た叫び声……何だ朝っぱらから大声を出して……今の声はドラミか?
俺は寝覚めが悪いんだから少し静かにしてくれ……って、この鬼気迫る感じは只事ではないな……。
ドラミは決してふざけ半分でこんな悲痛な声を上げない……一体何事だ? 俺は気分が優れないままドラミの声がした方へと歩いて行く。
「これは……?」
一瞬目の前の光景が信じられなかった……いつも皆が集まる広場で俺達ドラゴン兄弟の侍女の五人が血まみれで倒れていたのだ。
「エミリー!!」
俺から一番近い所に倒れていた、俺の侍女であるエミリーを抱き起す。
「一体何があった!?」
「……リュウジ……様……ドラゴ様……が……」
彼女が震える手で指をさした先には、恐らく五人の返り血を浴びたであろう身体が深紅に染まったドラゴが仁王立ちしていた。
俺に気付いたのかこちらに鋭い眼光を向け睨んできた。
そして俺はドラゴの脚に踏まれているあるものに気付く…それが何であるか分かるまでそうは掛からなかった……あれは俺の二番目の妹のスーだ。
血の池に浸りピクリとも動かない……次の瞬間、俺に頭に一気に血が昇った。
「ドラゴお前っ……!! スーに何をしたーーー!!」
「……コイツはドラゴンに相応しくない……見ていてイラつくんだよ!!」
「何だと!? そんな理由でスーを襲ったってのか!?」
俺とドラゴが対峙している間にリュウイチもこの場に駆け付けていた。
ドラミと二人で俺達の様子を心配そうに窺っている。
「俺達ドラゴン族は世界最高の生命体であり、至高の頭脳と最強の肉体を持った種族でなければならない……なのにコイツと来たら花を咲かせたり、人に化けるなどのどうでもいい技術だけ達者で攻撃方法一つ確立できていないではないか!! 俺達は常に高みに君臨し、暴力と恐怖で全てを支配しなければならないのにも関わらずだ!!」
足蹴にしているスーを見下しながら、その足に力を籠め踏みにじる。
「やめろ!! あれはスーの個性だろう!! 何もドラゴン全てがそうでなければならないと言う決まりはない!! 優しいドラゴンが居てもいいじゃないか!!」
「甘い!! お前がそんなだから他の者達が堕落するんだ!! 未だ己の能力も開花させていないお前が偉そうな事を言うな!!」
くそっドラゴめ、俺が一番気にしている所を突いて来やがって。
そうさ、俺は未だに自分の能力が分からない……お前に比べれば出遅れているさ。
しかしこうなってはもう奴との対話はどこまでいっても平行線だな、『力こそ正義、強さこそ絶対』を謳っているドラゴの奴は、力を示していない俺の話など聞く耳持たないだろう。
ならばここは腕ずくでも奴をひれ伏せていう事を聞かせるしかない。
「じゃあ今ここでお前が大好きな暴力で決着を付けようじゃないか!!
今すぐスーからその汚い脚を退けろーーーーー!!」
俺は右腕を振りかぶり一気にドラゴへと飛び掛かった。
俺にだってドラゴンである以上それなりの
いくら相手が兄弟の中で一番身体が大きく、外皮が固いドラゴであっても無傷では済むまい。
「『
ドラゴの身体が一瞬虹色に輝く。
何? あいつ、魔法を唱えたのか!?
俺の爪がドラゴの額に突き立った……が、次の瞬間俺の爪は全て粉々に粉砕されてしまった。
「ぐあっ……!!」
爪だけではない、腕の骨全体が軋み激痛が走る。
なんて固い外殻だ……これがドラゴの魔法の効果か?
「ドラゴお前……いつこんな魔法を憶えた?」
「フン……お前らの様に日常を無為に過ごしていないのでね……俺は強くなる為なら努力は惜しまん」
「ああ、そうかよっ……!!」
すかさず俺は次の攻撃手段に出る、振り向きざまに尻尾を振り、砂埃を巻き上げたのだ。
それがドラゴの目に命中、堪らず目を瞑り頭を振り回す。
さっきの『
ドラゴンだって目に異物が入ったら悶える程痛いのだ。
「うおっ!! お前ぇ!! なんと姑息な!!」
目を擦り涙を垂らしながら身体を振り、辺りを警戒するドラゴ、だが隙だらけだ。
奴が動いたせいでスーから脚を放した。
よし、今の内にスーを救出だ!!
俺は未だぐったりしているスーの首の後ろを軽く噛んでそのまま後ろに放り投げた。
ちょっと痛いかも知れないけど我慢してくれ。
その方向には今、リュウイチとドラミがいるはずだ。
「二人共!! スーを頼む!!」
「おう!! 任せろ!!」
「うん!!」
二人は協力してスーを抱きとめた、取り敢えずこれで心置きなく戦えるというもの。
だがドラゴの外殻が強化されているのに変わりはない、このまま攻撃してもダメージを与えられない。
狙うなら固い外殻ではない所……それは腹だ。
蛇腹状に折りたたまっているが比較的柔らかい皮膚の部位……しっかり狙えばドラゴを悶絶させることが出来るだろう。
俺はまだ無事な左の拳を握りしめ、ドラゴの隙を付き懐へ潜り込んだ。
「よし!! いける!!」
あとは力一杯左手を突き出すだけ…。
「『
またもやドラゴが魔法を唱えた、奴を中心として地面が割れ、砕かれた大小の岩々を巻き込み放射状に外側に向かって衝撃波が拡がっていく。
しまった!! ドラゴめ!! 俺が何処から仕掛けて来るか分からないから範囲攻撃系の攻撃魔法を使ったな!?
この魔法は以前訓練場で見た魔法……いや、数段強化されている!!
この短期間でここまで練度を上げるとは、そうまでして力を求めるか。
俺にこの魔法を防ぐ術はない、近づきすぎたのだ。
勢いよく飛んで来た大き目の岩が俺の額に命中した。
物凄い衝撃と痛み、俺の脳は激しく揺さぶられ次の瞬間、意識が遠のいていった……。
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