桃源のマリア

中村 鐘

プロローグ 天翔ける始まり

「あぁ…暇だなぁ…」

そう呟いた私の声は誰も聞くことなく手元にあるコーヒーの湯気とともに静かなカフェ特有の空気に消えていった。

足元には猫がいてここ連日続けての来店なのでなぜか妙に懐いてしまっている。

私しか構ってくれる相手がいないのか空きがあれば膝に乗ろうとしてくる。

その猫とじゃれ合いながら店内の様子を再度確認する。

以外にもモダンな感じでここに来ると連日の調べ物の疲れも抜けていく。猫とのじゃれあいも程々にし、今までの調べたことをまとめようと資料は紙の束でところところが破れている。聞いたところとても大昔に作られたもので、管理者たちは持ち出し厳禁と口を酸っぱくして言うが、これも仕事柄か高価なものは持ち出したくなる。資料の表紙は『古事記』と書かれていた。

曰く昔、人が生まれる前の歴史をまとめたものらしい。

裏表紙には日本地図が記されており、こちらは比較的きれいであった。

ちなみに、私が今いるのは昔『トーキョー』と呼ばれていた場所の真上にある天空都市、名を『ミラージ』。ここは昔、第四次大戦で崩れた地表から逃れるようにして生き延びた人たちが暮らしている。場所柄からかミラージには日本人の血を濃く受け継いだ人たちが残っている。

残ったコーヒーを飲み干すと目線を下にやる。何度見てもギョッとするが下は全面ガラス張りで、初めてきた時は腰を抜かしたな。

そんな私の愚行を思い出すと面白い。

資料まとめは程々にし、私は勢いよく立ち上がりカフェを出て行こうと財布の中からいくつかの紙幣を多めに取り出しそのままコーヒーの横に置いて行く。

猫はもの惜しげに見てきたが私が「また会えたら撫でてやる」といってやると

「ほんと?」といった気がしたので

「ほんとだ」頷く。

そして颯爽と出て行こうとした時後ろから私を呼び止める声がカフェの中に響いた。

「おいお前さん!なにこんなに置いてくれてんだい!こんなに悪いよ!」

それはこの店の店長の声だった。

私は振り向きざまにもう何度放ったかわからないセリフ全力の笑顔とともにを放った。

「もし私が死んだら余った金は使えないでしょ?」

「まさか…お前さん…」

言い終える前に、「正体は最後まで告げないのはお約束だろ?」そう笑って店を出る。

そして私は相棒との待ち合わせ場所に向かって走り出した。







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桃源のマリア 中村 鐘 @nakamurasyou

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