僕は蛇足と惰性だ
田原泳透
第1話僕は蛇足と惰性
日曜の夜に、目が覚めたら世界が滅びてればいいのになーって真剣に思う。
ウォーカーのいないウォーキングデッドの世界みたいな?
いやそれ今と同じじゃん。ふっ。セルフボケ、セルフツッコミ。
交通機関は動いていてほしいな。車の免許持ってないし。
社会のシステムが機能しなくなるくらいには世界が滅んでいるとしたら、理性のぶっ壊れたヤンキーが強いんだよなー。早めに人殺したりレイプしたりするだろあいつら。どんな状況であっても人生楽しむよな。
トランプの大富豪でいう革命だ。弱いやつが強くなって、強いやつが弱くなる。暴力が有効になるわけだ。で、僕みたいな7とか9くらいのカードは特に影響なくて、便秘解消みたいに、物語の中で名前がないまま死んでいる。
僕の妄想なのに、僕は雑魚で平気で死ぬ。
主人公じゃないよな僕は。生きていて辛いくらいにはそう感じている。僕目線の小説とかマンガがあったらすぐ打ち切り。AVの主観みたいな感じで、主役は僕の視界の中にいる誰かなんじゃないかな。
人気ドラマの脇役のスピンオフ、って感じでもない。キャラ立ってないし。
じゃあ僕はなんで生きているんだろう。布団の中で考えるにはテーマが重すぎるせいか、いつもこのあたりで意識は薄れて日曜は沈んでいき、月曜が頭をもたげ始める。
で、月曜。
冷え切ったワンルームにスマホがバイブレーションした。枕もとの振動で僕は起きる。頑張って目を開けるが、外はまだ薄暗い。スマホ見るとニュースアプリからの通知が5分おきくらいに来ている。
スクロールすると断片的に単語が目に入る。「世界」「アメリカ」「首相」「政府」「テロ」「停止」「緊急」「不明」「不明」「不明」
またアメリカでなんか起きたのか。一番下の通知から見ていく。
『世界的に原因不明の死亡が多発 日本でも』『死者推定100万人 世界で原因不明の死』
これ、ヤバくないか。テレビをつけてみると、毛髪の1本1本は陰毛みたいなのに薄いという冴えないおっさんがニュースを読んでいた。たぶんディレクター? 彼の後ろにあるガラス越しで局員が走ったり電話に出たりしているのが見える。
そして、走っていた一人が突然倒れて画面から消えた。
結局、ディレクターが言っているのは死因不明だし、対応策も考えられない。年齢・性別・地域に関係なくランダムに人が死んでいるとのこと。
いったん深呼吸。
まずは、会社に行かなくてよさそうだな。
とか思っていると、小さい頃のことを思い出す。
田舎で、特に不自由なく過ごしてきた。友達は多くなかったが、親友は数人できた。
中学生、帰り道が一緒の友達が入ったバドミントン部に、僕もなんとなく入った。
高校受験に失敗した。1日1時間も勉強していなかったのに偏差値ギリギリの高校を受けたからだった。親の前で泣いた。
滑り止めの高校に入り、勉強に励む。つもりだったが人は簡単に変われず、勉強はそんなにしていなかった。
受験になると当然希望していた国公立大学に入れず、3月になって、突然浪人したくなさすぎて僕でもセンター利用で入れる東京の私立大学に入った。
そんな、2~3軍の学生生活。スポットライトは当たらないけど、総じて楽しい日々だったと思う。
コミュ力なくてバイトの面接に10回落ちたこと。就活ではその10倍落ちたこと、卒業後も決まらなかったこと。初めてできた彼女が、別れた次の日他の男とディズニーに行っていたこと。親の金を頼りたくないのにお金はないから、リボ地獄に足を踏み入れたこと。
大学卒業して2年、ITエンジニアの正社員にはなれたが、膨らんだリボ払いや奨学金の返済で生活するのに精一杯なこと。
今年で27歳。後悔が積み重なって今の僕がいるということ。
これが走馬灯だった。
自宅でうつぶせになっていた僕は、体を起こそうとするも、激しい頭痛が襲い、全身が筋肉痛のようになっていてすぐに起き上がることはできなかった。首だけを動かしてテレビを見る。つけっぱなしだったテレビから、さえないディレクターは消えて、デスクとガラスだけになっている。
死んだのか。どれくらいの人が死んだんだろう。先ほどまで走馬灯に映っていた田舎の両親や兄弟はどうなっただろう。悪い予感はする。でも今となっては確かめる手段もない。スマホは圏外だし、パソコンのWi-Fiもつながらないようになっている。
死んだのは推定100万人レベルではないことくらいわかる。
布団の中に転がり込み、とりあえず体を癒す。
今は何も考えられない。毎日思い描いていた夢が叶ったというのに。
僕は蛇足と惰性だ 田原泳透 @oyogusukeru1991
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