現代忍者転生、イケメン領主の元で世直し旅しています~俺は低ランクで、相棒はナナフシの精霊~

くま太郎

忍びの死

 職業に貴賤なし。それなら問いたい。この待遇の差はなんなんだ!?

 俺が今いるの雑居ビルの屋上。当然、屋根なんてない。そして今日は雨だ。それもドシャ降りレベルの雨である。

 一応軍隊でも使われているレインコートを着ているが、目立たない様に身を低くしている所為で全身ずぶ濡れです。


 森野仁 四十歳 職業忍者


忍者と言えば、時代劇や歴史小説のキャラクターだと思われている。しかし江戸幕府が瓦解した後、忍者はスパイや探偵となり、生き延びてきたのだ。

俺の勤める会社も表向きは普通の調査会社。しかし実際は大勢の忍びを雇い、非合法な依頼もこなす。俺も自慢の技を活かして、多方面で活躍していた。

軍事産業に関する密書(しょるい)を外国のスパイから守りながらの配達に、要人や有名人の護衛や監視。暗殺をした事も一度や二度ではない。

(忍びの世界も、IT化の波には逆らえず……回ってくるのは、くだらねえ仕事だけ)

 忍者を雇っているとはいえ、うちの会社は一民間企業。IT化に対応出来なきゃ、顧客が離れていくだけ。

 結果、配達はメールにより不要となり、監視は盗聴器やドローンに取って代わられる様になった。セキュリティーシステムが強固となり、護衛の依頼も減っている。

 なにより街中に設置された監視カメラの所為で、活動が制限されているのだ。

 正確に言えば会社の業績はまだ黒字だ。今活躍しているのはハッキング等に長けた若手の忍達。おじさん、パソコンは文字入力しか出来ないのです。

(向こうは、暖かいお部屋でアイドルといちゃいちゃ。俺は雨の中、一人寂しく警戒中……仕事とは言え、寂し過ぎる)

俺の視線の先にあるのはいわゆるラブホテル。皮肉な事に、今回の仕事はITが関係している。

IT会社の社長と人気アイドルの逢引き現場の護衛。それが今回の仕事だ。無論、セキュリティーシステムやドローンを駆使すれば、確実に安全が得られる。

しかし、既婚者である社長は証拠が残るの事を嫌いアナログな護衛を依頼してきた。

件の社長はわざわざステージ衣装を持って来させて密会しているそうだ……羨ましいを通り越して、恨めしいレベルのお遊びである。このお遊びが世間にバレたらバッシングの嵐になるだろう。

 だから忍者に護衛させていると。その忍者は靴の中まで濡らす豪雨の中、必死にマスコミを警戒しています。

(俺もイチャイチャしてーよ。こんな現場放り投げて、二次元の世界に現実逃避したい)

 でも、上司が怖いから無理。忍びの実力なら俺の方が上だけど、人事評価を下げたくないのだ。

護衛から解放されたのは、二時間後であった。護衛時間はトータル五時間、お陰様で腹が減りました。ただ今時間は深夜の十二時、そして明日もお仕事……向かう先は独身男性の強い味方コンビニである。

(弁当はこれが良いな……おっ、新作のスイーツが出てるじゃないか……ブリトーも買っていくか)

 仕事柄、飲酒に制限があるので食べる事が好きだ。でも、こだわりは特にない。自分の舌が美味いと思った物を食べるだけだ。

 コンビニを出て帰路に着く。いつも通りの代わり映えしない日常。

見慣れた風景がある筈であった。


「占い小屋?なんでこんなところに?」

 歩きなれた曲がり角を抜けて見えたのは、非日常的な光景。道路の真ん中に、ド派手な占い小屋が建っていたのだ。

屋根はスカイブルーで、外壁はレモン色。窓枠はエメラルドグリーンと、なんともポップな色使いである。

 しかも、ド派手な電球がネオンの様に輝いている。

こんな派手で、しかも道のど真ん中にある占い小屋なんて誰も入らないと思う。占いに頼る人は何らかの悩みを抱えているだし。

なにより、朝の通勤時に、この建物はなかった。

(悪戯か?それにしても、手が込んでるな……ちょっと、探ってみるか)

君子、危うきに近寄らず。普段なら近付く事さえ、ためらったであろう。しかし、妙に気になる。

忍びの性なのか、一度気になると調べておかないと安心出来ないのだ。

中を覗こうと近付いた瞬間、いきなりドアが開いた。

(自動ドア?嘘だろ!)

道路の真ん中に建てれた小屋に電線とは繋がっていない。つまり、自動ドアが動く訳ないのだ。

しかも、占い小屋は昼間の様に明るい。


「ようこそ。ロッキさんの腐りかけの鯖くらい当たる占い小屋に。私はロッキ、見ての通り占い師です」

 小屋の中にいたのは、外国人の男性。ライトブラウンの髪に、同色のカイゼル髭。そしてハリウッド俳優ばりに整った顔立ち。占い師というより、ビジネスマンだ。ただ、ファッションセンスが独特過ぎる

 占い師が来ていたスーツは、外壁と同じレモン色。ネクタイは窓話と同じ緑で、シャツは屋根と同じスカイブルー。

(こいつは何者なんだ?足の震えが止まらねえ)

恰好だけ見れば、インパクト狙いの芸人だ。しかし、ロッキと名乗った占い師からは、妙な迫力を感じた。足が震える程、迫力だ。

俺はこれまで、幾多の死線を潜り抜けきた。命を狙われた事も、一度や二度じゃない。

 その死闘より、目の前で笑っている占い師の方が何倍も怖いのだ。


「すいません。間違えました。お代はお支払いしますので、これで失礼します」

  震える足を誤魔化しながら店を出ようと試みる。しかし、意思に反して俺の足はピクリとも動かない。


「森野仁さんですよね?それなら間違っていませんよ。だって私が貴方をお呼びしたんですから」

 占い師の男はそう言うとニヤリと笑った。優し気な笑みであるが、なんとも言えない迫力があり背中を冷や汗が伝う。


「だ、誰の事でしょうか?私はそんな名前ではありませんよ」

 この占い師と初対面であり、まだ名前を名乗っていない。何より忍びである俺が、本名を名乗る事は滅多にないのだ。

 それにもかかわらず、占い師は俺の名前を言い当てた。


「私は凄い占い師だから、何でも分かるんですよ。森野仁、四十歳。青森県弘前市生まれ。代々忍びの家系に生まれ、その才を見込まれ小学校四年生の時に忍びの里に引き取られる。そこで忍びの腕を磨き、現在の会社に就職。その場にある物で、暗殺を行う事を得意としている。ちなみに独身で恋人はなし。趣味は食べ歩き。黒歴史としては、中学時代に二代目児雷也と書かれたTシャツを愛用していた事。当たっていますよね?」

 占い師の言った事は、全て当たっている。俺は子供の頃から祖父に鍛えられ、その後は養成学校で修行し忍びとなったのだ。

 占い師は俺が驚いているのを確認すると、にやりと笑った。いつもならためらわずに占い師を殺していただろう。しかし、今蛇に睨まれた蛙の如く微動だに出来ずにいた。


「あ、貴方は何者なんですか?」

 振るえる声で恐る恐る尋ねるのが精一杯である。忍びにとって見ず知らずの相手に素性を特定されるのは、屈辱以外の何ものでもない。

 しかし名前だけでなく出身地、経歴に加え黒歴史まで当てられると最早恐怖でしかないのだ。


「ただの占い師ですよ。貴方をお招きしたのは、ただの老婆心です。お前はナイスミドルな紳士で、老婆じゃないだろって突っ込みはなしですよ……では今日のニンニン占い。棒手裏剣を選んだ貴方、少しアンニュイな日々が続くかも。上司から嫌がらせを受けて、落ち込んじゃったり。そんな時は、蜂蜜入りの紅茶でリラックスしてね。ラッキーカラーは緑、運命の言葉は毒蛇、ラブアイテムは蜂蜜大根です。大変、死んで異世界転生しちゃうかも?でも大丈夫。死がラブリーでハッピーな出会いに繋がるから……お代は今度お会いした時にもらいますね」

 運命の言葉が大蛇ってなんだよ?死がラブリーでハッピーな訳ないだろ!

 占い師に突っ込もうとして唖然とした。

 俺は、元の曲がり角に立っていたのだ。そこにあるのは、いつもと変わらない光景。あの占い師だけでなく、あの派手な小屋までも消えていたのだ。

(レジ袋のブリトーは温かいままだ……忍びが化かされたなんて笑えないよな。ここらが潮時か……地元に帰っても仕事はねえし、内勤に回してもらうか)

 少し前から内勤への移動を考えていた。このまま現役を続けても、回ってくるのは今日みたいなくだらない仕事だけだ。

 今まで十分に戦ったし、知らなくても良い秘密も沢山知ってしまった

まだ若い忍びには負けない自信があるが、引退時期を逃して野垂れ死した忍びを大勢知っている。

早い話が疲れたのだ。現役を退き、平穏な暮らしがしたくなったのんです。


 がちでやばい。足がもつれ、今にも転びそうだ。何より意識がどんどん薄れていく。

 腹にナイフが刺さっており、血が大量に流れだしていた。

 徐々に力が抜けてきており、忍び刀も手から滑り落ちそうになる。

(まさか俺が始末されるとはね……平穏な生活なんて夢のまた夢か)

 上司に内勤への移動希望を出したら快諾された。今まで良くやってくれた。次が最後の現場になるって言われ喜んでいたんだが……人生最後の仕事って意味だったのか。

指定された場所で出くわしたのは、忍びの集団でした。

 何人か見知った顔の奴もいる。多分、口封じってやつだろう。

秘密が漏れるのを嫌った政治家からの依頼。それとも身内を殺された奴の復讐……どっちも覚えがあり過ぎて、特定出来ません。しかし、仕事だけでなく、命までITに奪われるとは。

路地裏を逃げ惑う俺を追うのは、忍びではなくドローン。腹の傷は、かなり深い。それなら無理に戦わず、ドローンに追跡させようという忍びらしい現実的な方法だ。

 追跡をかわそうと速度を上げた瞬間、足がもつれて倒れてしまった。

(……腹減ったな……もう一回暖かい部屋で、家族と一緒に飯が食いたかったな……母さんの作った味噌汁美味かったな)

走馬灯の様に幼き日の思い出が蘇ってくる。まだ家族と一緒に過ごしていた温かな日々。

 仁は虚空へと手を伸ばし、何かを掴もうとした。しかし、その手は虚しく空を切る。

 そして僅かに微笑むと、そのまま息絶えた。

 仁の遺体の脇に一人の男が立っている。例の占い師である。


「森野さん、お元気ですか?お代をもらいにきましたよ。いただくのは魂。まだ元気な貴方の魂がお代ですので……ジャパーズニンジャが異世界でどんな活躍をするのか?楽しみですね」

 占い師の男はそう言うと、路地裏から姿を消した。

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現代忍者転生、イケメン領主の元で世直し旅しています~俺は低ランクで、相棒はナナフシの精霊~ くま太郎 @bankuma1027

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