すずめ
とある藩。大きくも小さくもなく、特に問題もなく平穏無事といったよくある藩。
この藩のお城に、一人の商人が出入りしていた。
商人の名は与太郎。殿さまからの信頼も厚く、まあ成功している商人といえるだろう。
「ううむ……これは困ったぞ」
与太郎がそう唸っているのには、ある理由があった。
最近、与太郎の懇意にしている商人仲間の一人から、珍しい中国のすずめを手に入れることができた。
これはいい、早速お殿様に御献上しようと思ったところで、すずめの数を見て与太郎は唸り声をあげてしまうことになってしまったのだ。
すずめの数は四。
実に縁起の悪い数だ。
なんだそんなことと思われるかもしれないが、昔の人々は、縁起をかつぐということに対してとてつもない執着を持っている人も珍しくはなかったのだ。
そんなご時世の中、お殿様の縁起かつぎの趣味は度を越していると有名になるほどだった。
珍しいすずめとはいえ、このままでは受け取って喜んでもらうどころか、下手をすればこんな縁起の悪い数を送るなどふざけているのかと、その場で無礼討ちされてしまうかもしれぬ。
どうしたものかと、与太郎が唸り声を上げ続けていると、
「いかがなされましたか、父上?」
と、与太郎の息子が声をかけてきた。
この息子、商人の息子というだけあって、実に要領のいい若者で、父親である与太郎でさえも言い負かされてしまうくらいの口のたつ若者であった。
「おお、息子よ、いいところにきた。実はだな――――」
かくかくしかじかと与太郎が息子に説明すると、息子は胸を張って与太郎に言った。
「なるほど、父上の一大事はこの店の一大事。お任せください、良い案がございます」
「おお、そうかい。さすがにお前は頼りになるね。して、その案とはどのようなものだい?」
「少々お待ちくださいませ」
そう言って、息子は外へと出ていって、十分ほどして戻ってきた。その手には、日本のすずめが一匹握られていた。
「このすずめを足して、五匹にすればよろしいですよ。これなら、縁起のいい数字です」
この言葉に、与太郎は渋面を浮かべた。
「うん、確かにお前の言う通りかもしれないが、中国のすずめの中に一匹だけ日本のすずめを入れては、恰好がつかないだろう?」
「そこはどうぞこの私にお任せくださいませ。決して悪いようにはいたしません」
「わかった、そこまでお前が言うのなら、お前を信用することにするよ」
そうして、与太郎は息子と共にお城に行って、お殿様にすずめを献上しようと、お殿様の前へと通された。
「おお、与太郎。本日は何用じゃ?」
お殿様が
「こちら、珍しい中国のすずめが手に入りましたがゆえ、お殿様へと御献上つかまつりたいと思い、参上いたした次第でございます」
へへぇ~~っと平伏する与太郎と息子。お殿様はそれを見て、嬉しそうに身体をゆすりながら言った。
「ほう? 中国のすずめとな? それは珍しい」
お殿様が喜び勇んで箱をのぞくと、すぐに怪訝な表情となって与太郎に聞いた。
「ふむ? 確かに四匹は中国のすずめらしいが、どうして一匹だけ日本のすずめが混じっておるのだ?」
すると、与太郎の代わりに息子がすかさずお殿さまにこう言った。
「はい、お殿様。その日本のすずめはお殿様の御言葉を中国語にして中国のすずめに伝える通訳でございます」
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