いい異世界はいい世界
長廻 勉
プロローグ ~二時間と五年ぶりの再会~
「ギルドに加入されたいという事であれば、まずはギルドの元締めであるクライフ商会より認可状を購入して頂く必要が御座います。認可状は登録者用とギルド保管用で2部必要です。認可状に必要事項をご記載頂いた上でこちらにご提出いただきますと、こちらで審査した後に審査完了の押印をして認可状をお返しいたしますので、今度はその認可状を持ってに再びクライフ商会の元へと出向いていただくと認可の押印がされます、今度はそれらを持って再びこちらに来て下さい。その時に認可状と併せてギルド登録費と初年度会費のお支払をお願い致します。会費についてはその金額に応じて受けていただける保障が……」
「大体分かりました……すこし検討します。」
ギルドに入るには金が必要、最後のそれ一つが分かれば十分だ。
「そうですか、また何かございましたらお越しください」
受付の女性は笑顔で俺を見送ると、「次の方、どうぞ」と業務へ戻る。
ギルドに登録すれば仕事にありつけると聞いたが、その為には金が必要らしい。
その金が無いから職を探しているのにこれでは本末転倒も良い所だ。
こちらの世界に来てから五日、碌な物を口にしていない。
育ちざかりの体を持つ身として、これは耐え難い苦境である。
ギルド商館を出ると外には赤レンガの建物と石畳で出来た都市が目の前に広がっている。
まるで西洋のおとぎ話に出てくる上品さと愛嬌に溢れる街並み。
俺は物語の中では語られぬ暗部の様にやつれていた。
来ている学生服からはそこはかとなく異臭がし、頭を掻くとフケが爪の間に見て取れる。
こちらに来てから風呂にも碌に入れていない。
頭を掻いた時にフケが肩口にも落ちただろうがそれを払う気力も無かった。
「……」
このまま死んでしまうなら、ホント呆気ない人生だったな。
それならせめて人の目に触れないところで、誰に迷惑もかけずに安らかに死のう。
俺は人気の無い路地へ入り、その場にへたり込んだ。
路地の中は陽の光が遮られ陰鬱な雰囲気だった。
しかし、日差しに当たることですら体力を消耗しかねない俺にとっては寧ろ心地よかった。
そういや、なんでこんなことになったんだけ。
この数日知らぬ土地に迷い込んでしまったという事で頭がいっぱいになっていた。
それが、俺がここにきてしまった理由を朧げにする。
朧げな頭の中では路地を抜けた大通りの喧騒も最早彼方の先。
しかし、路地の中に響く石畳を蹴る音までは無視が出来なかった。
それまで一定のリズムを刻んでこちらに向かってきた小気味良い音は俺の傍まで来た時にぴたりと止まった。
俺が路地の真中に足を投げ出しているから通れないのだろうか。
手を使って足を引込めようとした、その時だった。
誰かの手が俺の腕を掴んだ。
「国衛くにえお兄にい……?」
その一言に、俺は現実へと引き戻された。
それまで疲労困憊していたことも忘れ、勢いよくそちらを見る。
目の前には女性が不安と驚きの入り混じった表情で佇んでいる。
そして、俺はその女性に見覚えがあった。
茶色の混じる癖のかかった髪、まつ毛の長い目が印象的な顔。
「……政子?」
兄弟姉妹のいない俺を「お兄」と呼ぶ人間は一人しかいない。
黒坂政子、3歳下の幼馴染だ。
目の前の女性は、その政子にそっくりだった
「なんで、こんなところにいるの……?」
なんでって、俺はお前を探していて、それで……。
それに、なんでって言いたいのはこっちのセリフだ。
お前こそなんでこんなとこにいんだよ……。
それに、なんで、お前そんな発育良く育って……特に、その。
胸の辺りが。
俺の意識は、電源を切ったテレビの様に途切れてしまった。
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