第57話.収入源

1週間経つ頃には、100名を越える商人が街にやって来た。



俺が想定していたより、早いペースで商人が集まってきている。



商人が集まったお陰で、人口も増えてきている。



待望の飲食店もでき、これで宿屋も少し落ち着くだろう。



中には、ルーベンス組合を立ち上げた有名な商人もやって来た。



ルーベンスは、組合の設立者の名前で、組合の代表者はその名を引き継いでいっているそうだ。



ルーベンス組合は、卸売りが専門である。



卸売りとは、生産者または商人から商品を買い、それを別の商人に売るという職業である。



なぜ、卸売りが必要なのかというと、取引の回数を少なくするためである。



例えば、鉄を採掘しているAがいるとする。



Aは、金貨1枚分の鉄を持っている。



鉄は基本、鍛冶屋が買い取るが、その金貨1枚分の鉄を一人の鍛冶屋が全部買い取ってくれる訳ではない。



鍛冶屋が買い取れる金額にも限りがあるからだ。



その結果Aは、10もの鍛冶屋を回ることになった。



そういう人が、5人いれば、取引回数は5×10で50回になる。



しかし、そこに卸売り業者がいれば、その5人は卸売りに全部売ることができて、卸売りが10の鍛冶屋を回れば済む。



だから、取引回数は5+10で15回になる。



まあ、間に別の商人を挟む訳だから、最終的な値段は少し高くなるが、取引回数が1回で済むというのは魅力的だし、自分で販売活動をしなくて済むというのも便利なのである。



ちなみに、冒険者ギルドも卸売りに当たる。



全部がそうと言うわけではないが、冒険者ギルドは、冒険者から魔物の素材などを買い取り、別の商人に販売している。



これも立派な卸売りだ。



その、卸売りの商人であるルーベンス組合が、この街を拠点にしたいと言ってきたのだ。



以前までは、北にあるノルインという街を拠点とし、そこから近くの街に商品を輸送していたらしいのだが、大半の街に行くのに1日以上かかり、冒険者を雇う金も高くつくし、夜に魔物に襲われたりして商品がダメになったりしていたそうだ。



だが、この街を拠点にすれば、付近の4つの街にその日の内に行けるため、そこに目をつけたらしい。



この点は俺が最初から目をつけていた所なので、誰か来るだろうとは思っていたが、こんな大物が来るとはな。





この1週間で商会の方は大忙しである。



俺もたまに様子を見に行っていたのだが、シルフィが完璧に仕事をこなしていた。



一気に増えた住民票の資料も、あいうえお順に並べてあり、地区ごとに並べられていた。



当たり前と言えば当たり前だが、この世界では住民票なんてものは無いわけだから、どのように扱えばいいか分からなかったハズだ。



それを、シルフィが考えて整理整頓が出来たのだから、期待通りである。



シルフィがいなければ、いちいちこっちから全てを指示しないといけなかっただろうからな。



それとこの街も大きくなってきたので、そろそろ街の名前を決めてはどうかとシルフィに言われた。



俺はあんまり名前を考えるのが得意ではないので、シルフィに意見を求めると、バルト様のお名前から取ってはどうかと言われた。



シルフィの提案を呑み、街の名前は俺の新しい姓から取って、ルディウスとすることにした。





街は順調に大きくなっているが、1つ問題がある。



それは、俺の収入が現在無いことである。



商人や人が集まってきたことで、税を得ることはできる。



だが、年に1度一括で徴収するため、しばらくは収入がない。



家賃の収入は俺のところに入るが、大工さんに払う費用や商会の職員に払う金の費用もあるため、一年ぐらいは利益が出ず赤字が続く。



リルさんの白熱電球や刀が完成すれば収益も増えるが、やはり時間がかかる。



最初に、王様やアルベルト家からもらった金があるとはいえ、このままでは少しヤバイかもしれない。



俺のリミットは2年。



2年を過ぎると、俺が好きなエリナが他の誰かと婚約することになる。



だから、悠長に金が入ってくるのを待っていることはできない。



金がなければ、人を雇えない。



結果、街を大きくするのが遅れてしまう。



金を手に入れる方法はいくつかある。



1つ目が、冒険者稼業である。



現在、Aランクの俺なら、割りの良い仕事を見つけることができるだろう。



2つ目が、迷宮都市に行き一儲けする。



俺の実力なら、そこそこ下の階まで行けるだろうし、迷宮で取れる魔石は価値が高い。



3つ目が、元の世界の知識を活用し、この世界にない便利な物を開発する。



この世界は、まだまだ発展途上なので足りない物が多い。



だから、何個か新しく作ることは可能だろう。



1、2はこの街を出て何かすることになる。



シルフィが居るとはいえ、まだ街が発展途上の今の段階でそれは避けたい。



そのため、必然的に3つ目を選ぶしかない。



なら、何を作るかなのだが……最初に思い浮かんだのは娯楽道具だ。



この世界には、娯楽がほとんど発展していない。



だから、将棋とかトランプとかスポーツとかを広めようかなと考えたが、これは即効性がない。



ルールを覚えるのにも時間がかかるし、広めるのにも時間がかかる。



それよりは、日用品を開発したり、屋台を出す方がいい。



例えば、爪切りやホッチキス、すきバサミなどの日用品や、ジャガイモの収穫量が多いことを生かしてポテトフライやポテトチップス、トマトケチャップなどの屋台販売である。



この程度なら直ぐに作ることができ、大量生産もしやすい。



これを作るに当たっても、当然労働者が必要になる。



しかし、普通に雇っては高くつくので、新しい奴隷を買うことにした。



爪切りなどを作ってもらう鍛冶職人5人と、料理が得意な女性3人を購入した。



材料はルーベンス組合から購入した。



塩が1kg銅貨15枚と他に比べると高かったが、これは仕方がない。



なぜならこの国には海が無いからだ。



仕入れるとなると、友好関係を築いている他国から購入するしかなく、ここに来るまで、様々な商人を介しているため、値段もそれなりに高くなっているのだ、



でも、この街を治める貴族ということもあり、かなり割引をしてくれたので助かった。



さらに、爪切りなどの便利な日用品ことを話すと、是非とも私共に売ってくれないかと言われた。



俺にとっても願ってもないことだったので、是非ともと了承した。



いきなり、販売先を手に入れられたのはとても大きい。



なぜなら、これで売れ残る心配はほぼ無くなったからだ。



そして、奴隷達に作り方や構造を教えたところ、屋台に関しては次の日から販売していけそうだ。



トマトケチャップはもう少し改良の余地が有るが、それも追々やっていけばいいだろう。



日用品はある程度まとめて売ろうと思うので、1、2週間ぐらいは掛かりそうである。






次の日、屋台は大盛況であった。



ポテトフライとポテトチップスの値段は銅貨3枚。



トマトケチャップもつけるなら+銅貨1枚と少し高めだ。



本当なら銅貨1枚で提供したいとこだが、塩の値段が高かったので仕方がない。



それでも、初めての料理に客は興味津々で、いざ食べてみると非常に美味しい。



さらに、トマトケチャップという新しい調味料も、ボテトフライに合うと大盛況。



その日の売上は銀貨3枚。



内訳は、ボテトフライ50個、ポテトチップス40個、トマトケチャップ30個である。



住民の絶対数が少ない現在で、この売上は中々いい方では無いだろうか。



今の住民の数はおよそ200~300人しかいない。



そんな中、1人1個ずつ購入したとして、およそ100人が購入してくれている。



つまり30~50%の人が購入したのだ。



でも、見たことのない料理ということもあって、購入してみた人が大多数だろうから、今後が大事である。



大抵の新商品は最初は売れるものだ。



それが、ずっと売れ続けるためには、2回目以降も購入してくれるリピーターが増えないといけない。



まあ、元の世界でもずっと売れ続けている商品だから、そこら辺はあんまり心配はしていないんだけどね。



このまま、売上が伸びていってくれることを願おう。



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