第56話.初めての商人
それから3日後、ギルドで働いてくれる職員が9名やって来た。
何故か冒険者ギルドの職員は、エルフが多い。
およそ9割をエルフが占めている。
今回来てくれたのも、全員がエルフである。
8人はエルフの女性であり、残り一人はエルフの男性である。
男性が、ギルドマスターを勤めてくれるそうだ。
そして、女性エルフの一人は知っている人だった。
「エルミアさん!?どうしてここに?」
そう、カルーネ街でお世話になった、エルミアさんだった。
「フフ、お久しぶりです、バルト様。こちらで、冒険者ギルドを作るということでしたので、志願させていただきました。」
俺が貴族になったからだろうか。
呼び方が、゛さん〝から゛様〝に変わっていた。
「それは、嬉しいんですけど、良かったのですか?」
「ええ、バルト様に会いたかったので。」
そういって、妖艶に微笑んだ。
その笑顔に自然と赤面してしまう。
「からかわないでください。」
「はーい。これから宜しくお願いしますね。」
「はい、宜しくお願いします。」
エルミアさんが来たことだけは、計算外だった。
どうして、わざわざこんな所に来たのだろう。
見た感じ、嫌そうでもないし、無理やりというわけでは無さそうだ。
てか、心なしかどこか嬉しそうである。
まさか、本当に俺に会うために?
いやいや、あり得ない。
そこまで、自惚れてはいない。
まあ、エルミアさんは知っている人だし、やっていく分にはやりやすいので、これ以上深くは考えないようにしよう。
また、商会で働きたいという人も10人ほど来た。
念のため、簡単な計算問題と文字がちゃんと書けるかのテストをした。
その結果、一人だけ不出来な奴がいたため、そいつは落としたが残りは合格にした。
6人が女性で3人が男性である。
これで、この街も軌道に乗れることだろう。
その日、シルフィも俺の家に来た。
1週間後で良いと言ったのに、かなり早い到着である。
「これからよろしくお願いします。」
「かなり早かったですね。もう少しゆっくりしてきても良かったのですよ?」
「働くのが楽しみだのったもので。」
「そうですか。まずは、家を案内しますので、付いてきてください。」
「その前に、1つよろしいでしょうか。」
「何ですか?」
「今日からバルト様は私の主となる御方。ですから、私に敬語を使うのは止めていただきたいのです。」
俺が今までどんな相手にも敬語を使っていたのは、そっちの方が話しやすいし、適度な距離感を保つことが出来るからである。
それに、もう敬語で話すのがクセになってきている。
無理にタメ口で話す必要もないだろうから、シルフィには悪いけど敬語を止めるのは、もう少しシルフィと仲良くなってきたらにしよう。
「敬語で話すのがもうクセになっているし、こっちの方が話しやすいのでしばらくはこのままでいいですか?」
「バルト様がそう仰るのなら私はそれに従うまでです。」
「ありがとうございます。では、行きましょうか。」
シルフィが住む家は、俺の家から50メートル離れた所にある。
最初は、俺の家の空いている部屋に住んで貰おうかと思っていたが、そうなるとシルフィのプライベートが無くなりそうだったので止めることにした。
シルフィもまだ20歳。
恋愛もするだろうから、俺の家だと出来ないこともあるからね。
シルフィの家は、一般庶民が住む家よりは豪華にしてある。
仮にも貴族の秘書なので、立派に作った。
やっぱ外観は大事だからね。
「ここがこれからシルフィさんの家となります。好きに使っていただいて構いません。」
「こんな所に住んでもよろしいのでしょうか?一人で暮らすには大きすぎると思いますが。」
「貴族の秘書ですから、これくらいの方がいいかなと思いまして。」
「確かにそうかもしれませんね。」
「もし、部屋の手入れが大変でしたら、使用人を雇ってもいいですよ。必要経費として計上しますので。」
俺がここまでシルフィに尽くすのは、期待しているからである。
優秀な秘書が手に入るとあれば、金は惜しまない。
「いえ、そこまでしていただかなくて大丈夫です。」
「そうですか。でも、これから忙しくなると思いますので、大変でしたら遠慮なく言ってください。」
「ありがとうございます。」
シルフィの荷物を置き、俺のオフィスに戻る。
「これからシルフィさんには、商会の管理と日々の収支の計上と報告をしていただきます。」
「はい。」
「商会は私の所有物なので、商会で働く従業員に出す給与は私が払うことになっています。そして――。」
その後、商会の仕事内容や街の仕組みについて説明した。
商会では、初の取り組みである住民票を作成している。
なぜ住民票を作るのか、それの意図を伝えるとシルフィは完璧に理解したようだ。
これで、俺の仕事量はかなり減ることになる。
いやー、大変だったな。
使った金は記帳して、街を見回り書類を見て、今後のことを考えてと忙しかったからな。
まだ、シルフィがどれだけ仕事が出来るのかが分からないので安心はできないが、彼女なら大丈夫だろう。
次の日、一人の男が馬車に乗り、冒険者を引き連れてやって来た。
「この街を治める貴族様はいらっしゃいますか!?」
「私がそうですが。」
「あなた様が!私は商人のタージュです。この街では出店税がいらず、利益の1割を納めるだけで良いと聞いたのですが、本当ですか?」
待ちに待った商人である。
ようやく1人来てくれたか。
「はい、本当です。」
「おお!ただの噂かと思いましたが、本当だとは。ぜひ、この街で店を開かせて頂きたい。」
「こちらこそ、お願いします。ですが、まだ人も少ないためそんなに稼ぐことは出来ないかもしれませんが、よろしいでしょうか。」
「ええ、大丈夫でしょう。こんなにも良い条件を他の商人が見過す訳がございません。今日中でも、他の商人がやって来ることは間違いないと思いますよ。」
「そうだと良いのですが。あ、店は中央通りでしたら、どこに開いても大丈夫です。南側に店舗を出す場合には申請が必要です。」
俺の中のイメージ図では、街を3つに分類している。
北側が、俺や俺と親しい人、マラアイ村の住人が住む区域。
南側が、住宅と店舗を持つタイプの店の区域。
中央通りが、決まった店舗を持たず、路上で店を出す商人の区域。
一番賑わうのは、中央通りである。
最初は南側にどんどん店を出してもらおうと考えていたのだが、よく考えてみれば、店舗を持つ商人とそうじゃない商人がいるわけで、それが混ざると景観的におかしいかなと思ったので、このように分類したというわけだ。
「それで、家はどうしますか?空きのある家はございますが。」
「しばらくはこの街でやっていくつもりなので、家を借りようかと考えています。」
「そうですか。今のところ、家は月に銅貨50枚で貸し出しだそうと思っています。それでよろしければ。」
カルーネなどの街では、家賃は銀貨1枚は下らない――スラム街は除くが。
それに比べ、半額に設定しているので懐には優しい。
「おー、そんなに安いのですか!?是非ともお願いします。」
「それでは、商会の方にご案内します。」
「もう、商会があるのですか!準備が良いですね。」
そうして、商会に案内し、いろいろと説明を受けさせ家を拝見し、手続きを終えた。
「まだ、この街は発展途上ですが、一緒にこの街を盛り上げで行きましょう。」
「はい!これから、宜しくお願いします!」
「こちらこそ。」
こうして、一人目の商人が街に住んでくれるようになった。
それから数分後、タージュさんの言葉通り、商人がやって来た。
結果、1日目にやって来てくれたのは5名だったが、その商人達が護衛として冒険者も引き連れてきたので、宿屋は大忙しだった。
うーん、流石にこの人数になってくると、飯を食えるところが1つというのは、厳しいかもな。
早めに、そういう店を開きたいと思う人が来てくれれば良いんだが。
まあ、今後に期待だな。
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