第51話.建設(2)
家を一軒建て終わった頃、男のエルフがやって来た。
「バルト様、私ランバート様から頼まれて来ましたフェアロスです。土魔法を使えます。」
どうやらランバートが見つけてきてくれたようだ。
貴族がやって来ると思っていたが……よくよく考えればこんなところに貴族が来るわけないか。
だから、魔法が使えるエルフを寄越したのだろう。
「よく来てくださいました。さっそくですが、フェアロスには壁を作って貰いたいと思っています。」
人を集める上で大切なことは、安全であることだ。
誰がわざわざ危険な所に住もうと思うのだろうか。
中には、そういうところが好きな人もいるかもしれないが、大抵の人はそうではない。
この世界の村のほとんどは、村を囲う壁がない。
その付近にはあまり魔物が出ないからと言う理由はあるが、街に住む人間からしてみれば、そんなのは自殺行為に思えるだろう。
木で壁を作る村もあるが、木だとオークレベルの魔物に簡単に壊されてしまう。
だから、安全であることを示すために村を囲う壁が必要なのである。
まあ、城壁を作ろうとS級モンスターや空飛ぶモンスターが来れば城壁の価値はほとんど無くなるのだが、そんなことは滅多にないし街に来る前に対処するのが基本だ。
その壁を俺達の手で1から作るとなれば時間もかかるし、人手も足りない。
そんなときに便利なのが土魔法だ。
魔法を使い土や石で壁を簡単に作ることができる。
もちろん、魔力を消費するので1日に出来る作業は制限されるが、こっちの方がよっぽど速い。
最初から大きい壁を作るのも有りかもしれないが、人がいないこの状況で壁だけを立派にしても、中がスカスカだと見かけ倒しもいいとこだ。
だから、取り敢えず、直径1kmの壁を作ってもらおうと考えている。
直径1kmの円周はおよそ3km。
それを一人の魔導師が建設するのに掛かる時間は、大体1ヶ月ぐらいだろう。
人が多くなり、直径1kmに収まりきれなくなれば、二重丸みたいな形で壁を新しく作るのもいいし、壊して再建築するのもありだと考えている。
「壁ですか……どのぐらいの大きさを考えているのですか?」
「直径1kmぐらいです。」
「1km!?こんな小さな村に直径1kmもの城壁を作るのですか!?」
フェアロスが少し驚きの声を上げる。
「ええ、まあ。」
「作れと言うのなら作りますけど、こんなところに人が集まるとも思えませんが、大丈夫なんですか?」
そう思うのも無理はない。
せっかく壁を作っても、人が集まらなければなんの意味もなくフェアロスの苦労が無駄になるし、高い金を払う俺も無駄になる。
それを心配してくれたのだろう。
「大丈夫ですよ。必ず人は集まりますから。」
「――そうですか……それで高さはどのぐらいにしますか?」
「10mぐらいあれば良いと思います。」
「分かりました。あと金額ですが、ランバートさんからの頼みと言うこともありますので、半額の金貨10枚にしておきますね。」
金貨10枚か。
半額だから端から見れば安いのだろうけど、高いもんは高いな。
必要な投資なのだからしかたがないのだが。
「ありがとうございます。」
さてと、壁の建設はフェアロスに任せて、俺達は家の建設をしないとな。
1軒目は、早く俺達5人が寝られる程度の家が欲しかったから簡単な家にした。
あと2軒は同じような簡単な家でも大丈夫なのだが、残り2軒はそうはいかない。
なぜなら、宿屋と鍛冶場を作らなければならないからだ。
宿屋は出来るだけ大きい方が良いし、2階建てが理想だ。
鍛冶場は木を主体に作ると事故で燃えたときに困るので、土や石でつくる。
実際、炉さえ作れば他は何も作らずに外でも良いのだが、日や風を遮る屋根や壁も合った方がいい。
あまりにも質素にすると、エイグルのモチベーションにも関わるだろうからそれなりの物を作らないといけない。
作る上で良かったのは、この世界にセメントが合ったことだ。
この世界では木の資源が豊富である。
そのため、セメントがなくても家を作れるので、セメントは無ければ無いで良いのだ。
もし、木があまりなく石や土が主な資源だとしたならば、土からレンガを作りモルタル――セメントに砂と水を混ぜた物――で接着させ家を作る必要があっただろう。
つまり、その場所の環境によってセメントの重要度が変わってくるのだ。
セメントは石灰石さえあれば作るのは容易いのだが、木の資源が豊富な日本ではコンクリートが普及したのは1900年頃。
セメントが普及したのも1800年頃である。
日本では原料となる石灰石が各地で取れるのにも関わらずだ。
なので、木の資源が豊富なこの世界にもコンクリートが広まっていない可能性が合ったのだ。
鍛冶場はラエアがレンガを買ってきていたので、モルタルを接着剤にして作っていくことになる。
まあ、フェアロスに頼めればレンガを使う必要もなく一番早いのだが、壁作りが先決だ。
だから、俺らで作るしかなかったのだ。
そして一ヶ月後、予定していた5軒の建設が何とか終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます