第30話.実践訓練(2)

オークはまだこちらに気づいておらず、座り込んで休憩をしている。



最初は速さだけを強化する。



「加速!」



この魔力量だとスピードは時速60kmぐらいだろう。



オーク目掛け駆けると同時に時速60kmのスピードが出る。



そのスピードのまま、オークの心臓目掛け剣を突き刺した。



「ブギィ?」



突き刺す瞬間、オークはこちらに気づいたが時すでに遅く、剣は心臓を突き刺していた。



剣を抜くとそこから血が吹き出した。



「おーすごいな。簡単にオークの皮膚を貫けた。」



強化魔法無しで戦うと、オークの皮膚の硬さに少し苦戦する。



スピードは力だ。



力=質量×速度。



もし自動車に跳ねられるとしたら、スピードが出ている方が死ぬ可能性が高いのは当たり前だ。



なんにしろ、スピードが速ければ速いほど力もあがると言うものだ。



しかし、スピードを活かせる攻撃は突き以外にはない。



斬ろうとしても、そのスピードに腕力が追い付かず、振り遅れてしまうのだ。



だから、スピードを上げるだけの魔法では攻撃バリエーションが少ない。



雑魚相手なら、1体を突き刺し殺したあと、すぐに他の敵の後ろに回り込み殺しとそれを続ければ良いだけだろう。



ただし強者と戦う場合はそれだけでは勝てない。



また、これ以上スピードを上げた場合、他の部分も強化しないと、体がスピードに耐えられず、まともに突き刺すこともできない。



一部を強化するなら他の場所も一緒に強化しないと、力を100%引き出すことはできないのだ。



例えばスピードを上げた場合、腕力、皮膚――スピードによって掛かる体の負担から守るため、目――動体視力、などを強化しないと本来の力を発揮できない。



なら、最初から全部強化すればいいと思うかもしれないが、全部を強化した場合魔力消費が大きくなる。



戦闘は必ずしも短時間で終わる訳じゃないし。



場合によっては何時間も戦わないといけないこともある。



その時に、ずっと身体の全部を強化していたら、魔力が尽きるのも早くなる。



だから、魔力を節約するのは戦闘において重要だと俺は考えている。



――オークの死体を魔法のバックに入れる。



「よし、ウィル次行こう。次は複数体見つけてくれ。」



「ウォン!」



6分後、歩いている3体のオークを見つけた。



「身体強化フィジカルブースト」



次は、スピードの他に腕力、目、皮膚を強化する。



込めた魔力は時速120kmぐらいだ。



後ろから不意討ちで殺しても意味がないので、正面から堂々と行く。



「ブギィーーー!」



俺に気づいたオークたちは、俺目掛け走ってくる。



俺も一歩目を踏み出すと、オークの後ろをとる。



「ブギィ?」



オークはいきなり消えた俺に驚いている。



そのまま後ろから斬り殺し、オークが後ろにいる俺の存在に気づく前に3体とも殺した。



「簡単だったな。」



ほんの1週間前まで苦戦していたオークを簡単に殺すことが出来る。



その成長に自分自身嬉しかった。



オークの死体を魔法のバックに入れ次に行く。



「次は雷魔法だな。ウィル今度はお前も戦って貰うからな!」



「ウォンウォン!」



「よし、次は2体探してくれ。」



10分後2体のオークを見つけた。



「ウィルは右の奴をやってくれ。」



「ウォン。」



オークの正面から行く。



オークは俺達を見るや否や襲いかかってきた。



「サンダーショット」



指先から小さな電気の塊を左のオークに放つ。



「ブギィ?」



ゆっくりと進むその塊をオークは走るのをやめ不思議そうに眺めていた。



その塊がオークに当たると、雷にでも打たれたかのように倒れた。



さっきのサンダーショットは敢えてゆっくりとしたスピードで放った。



これは高圧の電気をギュッと固めたものだ。



一見弱そうに見える魔法だが、その威力は半端じゃない。



大抵の生物は死ぬだろう。



「ブギィーーーー!」



仲間を殺されたオークは怒り狂う。



もう1体はウィルに任せてある。



本当に危なくなったら助けにはいるつもりだ。



オークはこん棒をウィル目掛け振り下ろす。



それをウィルは容易く避け、こん棒を持っている方の腕に噛みつくも、皮膚が硬く対したダメージは与えられない。



オークは反対側の手でウィルを殴ろうとするも、ウィルはそれを見て腕を離す。



「ブギィ!ブギィ!ブギィーー!」



それからこん棒を振り回すも、ウィルには一向に当たらない。



そんな状況に段々と苛立ってきている。



遂に堪えきれなくなり、苛立ちを込めるように大きく振りかぶり、こん棒を振り下ろそうとしていた。



そんな大きな隙をウィルが見逃すハズもなく、振り下ろした瞬間に避け首筋を噛み切った。



「ギィーーーー!」



急所をやられたオークは狂ったように叫ぶ。



ウィルは止めを刺すかのようにもう一度首筋を噛みきった。



「……ウィル……強いな。」



俺が想像していたよりもウィルは強かった。



オークの攻撃を避けていたときも、敢えて避けているようだった。



むしろ楽しんでいるかのように見えた。



つまり、ウィルはいつでもオークを殺せた訳で、さっきの攻防はウィルに言わせれば遊んでいただけなのだろう。



子狼の頃から面倒見てたから、強いイメージは全くなかったのだが……



「ウォン!」



ウィルは尻尾を振りながら俺のもとまで来た。



「ほめてほめて」と言う声が聞こえてきそうだ。



その要望に答え、ウィルを撫でる。



「よしよし、よくやったな!」



「ウォンウォン!」



さて、これでウィルの力も見れたし、実戦練習も出来た。



だけど、まだ物足りないのでもうしばらく狩りを続けることにした。



その後、何体かオークを倒していると、15体ほどのオークの集落を見つけ、魔法とウィルの力で簡単に倒せた。



もう、この時点でオークは敵ではなくなっていた。

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