第28話.特訓

次の日、俺は魔法の練習をしていた。



隣にはウィルがいて、寝転んで俺の練習を眺めていた。



雷魔法はまだマシだけど、強化魔法は正直制御が出来ていない。



力を上げたり、聴力を上げたりは制御とかはあまり関係ないが、スピードを上げたときいつもの感覚と違いすぎて、20メートル行くつもりが7~80mぐらい行ってしまう。



強化魔法を使っていても、思い通りに動けるようにならなければ実践で使うことは出来ない――相手に突進し突き刺すぐらいなら出来るだろうが……。



「どんぐらいスピード出てるんだろう……100mで測ってみるか。」



スタート位置に印をつけ、そこから大股で跳びながら100歩測る。



大体100mだと思うが多少誤差が有るのは仕方がない。



ストップウォッチ的なのはもちろんないので、自分で数えることになる。



「ウィル間をとって吠えてくれ」



「……ウォン」



ウィルが吠えると同時に走り出す。



(1……2……3……)



「3秒!?」



3秒ちょっとでゴールしてしまった。



と言うことはだ、計算すると100÷3で33.33333……。



33.33×3600÷1,000で時速119.988km



約時速120kmってことだ。



かなり速い。



そして気づいたが、最初から最後までスピードが変わらなかった気がする。



でも、3秒じゃ分からないので試しに10秒走ってみてもやはり変わった感じがしない。



通常、人間が最高速度に達するまで平均で50mぐらい必要だ。



秒で言えば6秒ぐらい必要だ。



つまり、この魔法が優れているのは、時速120kmで走れるというところではない。



1歩目から最高速度を出せるところが優れているのである。



車にしろ動物にしろ、最高速度に達するまでに数秒は掛かるものだ。



それがほとんどが0に等しいとは……



いろいろ法則無視しすぎだろ。



これは、使いこなせれば大抵の敵には負けることはないだろう。



このあと少し実験をして、混める魔力の量によって、最高速度が変わってくると言うことが分かった。



相手によって強さを変えることもでき、魔力を温存したいときに有効だろう。



自分よりちょっと強い相手には、少量の魔力で良いし、めっちゃ強い相手なら大量の魔力……と言う形で使い勝手がかなり良い。



強化魔法について大体分かったので、今度は意思通りに動けるようになる特訓だ。



その特訓の場として優れているのは木々が生い茂る森の中だろう。



だから西にあるグルの森にいくことにした。



この木が生い茂る中、走ることが出来たら、強化魔法を制御できるようになったと言える。



「よし、やるか。ウィルは安全なところに隠れていてくれ。」



「ウォン」



最初から上手く出来るとは思っていないので、フィジカルも上げておく。



ぶつかった時に痛いからね。



100kmものスピードで木にぶつかったら下手すれば死にます。



そして、特訓を始めようと一歩目を踏み出したとき、俺の目の前には木があった。



「ドォーン!」



はい、案の定ぶつかりました。



でも、フィジカルも上げていたおかげで少し痛いぐらいだが、何度もぶつかればヤバイかもしれない。



行こうとしていた場所より20mぐらいオーバーしていた。



やっぱ、どうしても行き過ぎてしまう。



その後も、何度も練習するが一向に前に進めない。



少し進んではぶつかり、進んではぶつかりの繰り返しだ。



「よし!」



一時間ほどたった頃ようやく、マシになってきた。



一直線に等間隔で並ぶ木々をジグザグに抜けられるようになり、まだ完璧とは言えないが、意思通りに移動できるようにはなった。



「魔力も尽きてきたし、そろそろ帰るか。」



「ピィー!――ウィル……その口の回りに付いている血はなんだ?」



口笛の合図でやって来たウィルの口には、血がベッタリと付いていた。



そんなことは初めてだったので動揺する。



まさか怪我をしたのではと一瞬思ったが、どうやらそうではないらしい。



「ウォン!」



俺の心配をよそに、ウィルがついてきて!とでも言うかのように吠える。



だから仕方なくウィルのあとを追いかけると、そこには1匹のオークが倒れていた。



どうやら死んでいるようだ。



オークの首には噛みきられた痕があり、腹の回りはウィルに食べられていて少しグロい。



「ウォン!」



ウィルが褒めて褒めてと言うように尻尾を振りながら吠える。



多分、初めて狩った獲物を主人である俺に見せたくて連れてきたのだろう。



それにしても、皮膚が鎧のように硬いオークの急所を的確に噛み千切るとは……強いなウィル。



小さい時から見てきたから、姿は大きけれどまだ子供扱いしていた。



てか、まだ1歳ぐらいだから子供は子供なんだろうけど……



うーん、オーク倒せるぐらいなら戦力として考えても良いのだろうか?



でも、もしものことがあっても困るしな……



まぁ、狩った場面を見た訳じゃないし、不意討ちで殺したのなら真正面からはまだ戦わせられない。



一度ウィルの力を見る必要がありそうだ。



「よーしよしよし!良くやったなウィル!」



「ウォンウォン!」



撫でながら褒めてやると、とても嬉しそうだった。



それからしばらくウィルと戯れた。



「帰るか。」



「ウォン。」



帰りは強化魔法など使わずのんびり歩いて帰った。



その後1週間は魔法の特訓をし、強化魔法と雷魔法を鍛えた。



そのお陰もあり、強化魔法も雷魔法も意思通りに扱えるようになり、かなり強くなったと思う。



また、特訓中にマナを感じ取れるようになり、エルミアさんが言った通り魔法の威力が上がったり、魔力消費が少なくなったりした気がする。



1週間前は、1、2時間もすれば魔力が無くなりそうになっていたが、今では4時間は持つ。



魔力操作が上手くなってきたのもあるだろが、マナを活用できるようになったことも大きいだろう。



マナは、俺が感じたイメージ的には蝶の形をしている。



その蝶が俺の回りに集まり力を貸してくれている感じだ。



その集まってくる蝶も強化魔法と雷魔法で、蝶の種類が違うような気もしている。



まだ曖昧なので細かくは分からないが……



――明日からは、実戦練習に入ろうと思っている。



その時に、ウィルの戦闘能力も見れればいいな。

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