第26話.あの日の出来事(2)

グリフォンはこの中で誰が一番強いのか、さっきの魔法を見て気づいた。



だから、逃げている兵士をなぶり殺していたのを止め、かまいたちのような魔法を使い一瞬で殺す。



兵士達を逃がすのはイヤだったのだろう。



そのあと、マルスへと標的を変えた。



「クソ、ファイヤーアロー!」



マルスは焦ったのか、空を飛ぶ相手に炎で作った弓と矢を作りだし放った。



グリフォンは容易く避ける。



矢はグリフォンを通りすぎるが、そこから軌道を90度変えた。



グリフォンはそれに気づき避けようとするも、不意を突かれたため避けきれず



普通は魔法で作った矢を射ったあと、それを操作なんて出来ないのだ。



マルスは厳しい修行の上、出来るようになったのだ。



「キュピィィィィーー!」



翼を傷つけられ飛べなくなったグリフォンは地面に落ちた。



「今だ、ブレイズサークル!」



先程よりも魔力を高め、圧縮した炎の檻を作る。



隙間などなく、高圧な炎は、周囲の温度さえも上げる。



マルスの全魔力を注ぎ込んで作った魔法の檻だ。



翼を傷つけられたグリフォンでは破るのに時間が掛かる。



そして密閉した檻は、早く脱出しなければ窒息死するだろう。



「いくぞ!」



「はい!」



エルが馬車を操作し、マルスは自分の馬に乗り逃げる。



そうして、何とか逃げ切ることが出来た。



「何とか逃げ切れたな。」



「はい。ですが、私以外の兵士は……」



「気にするな。お前はエリナ様を守った。誇りに思え。」



「はい!」



コンコンコン



馬を降り馬車の扉をノックし開ける。



「エリナ様御無事ですか!?」



「ええ、マルス、大丈夫よ。それよりマルスは大丈夫なの?」



「はい。魔力を使い果たしてしまいましたが、なんとか大丈夫です。」



「そう。本当にありがとう。他の兵士は?」



「エルを除き、みな死んだと思われます。」



「っ!!…………」



「エリナ様が気に病むことではありません。それに彼らはエリナ様を置いて逃げようとしました。その中でエルだけはエリナ様を置いて逃げようとはしませんでした。当然の結果とも言えます。」



「彼らにも家族がいたはずです。家族のためにも何としても生き延びなければならなかったのでしょう。私はそれを責めません。」



「エリナ様……」



そんなときだった。



「よお!どっかの貴族さん。そんなボロボロでどうしたんだい?」



「だれだ!?」



「へへへ、死にたくなければ、その馬車を渡しな。」



現れたのは15人の盗賊だった。



「エリナ様しばらくお待ちください。」



扉を閉め、戦闘体勢に入る。



しかし、先程の戦闘で魔力を使い果たしてしまい、体全体に疲労感で覆われている。



普段の2~3倍は体が重たく感じる。



「イヤだね。」



だが、エリナ様を見捨てるわけにはいかない。



エリナ様はマルスにとって一番大切な人だからだ。



「そうか、なら死ね!」



1人の盗賊が襲ってくる。



通常ならこんな雑魚相手にもならないが、今は力が拮抗していた。



盗賊達は弄ぶかのように徐々に攻撃を仕掛けてきた。



5人の盗賊を倒すも相手はまだ余裕を見せている。



「そろそろ諦めたらどうだ。おとなしく中の奴を渡せばお前達は見逃してやるよ。」



「ふざけるな!お嬢様を引き渡すなどあり得ぬ。俺達が死ぬか、お前達が死ぬかだ。」



そんなときだった。



取り囲んでいた盗賊の一番左の奴が知らない誰かに斬り殺されたのだ。



「なん――」



そして、奴はそのまま2人目、3人目も殺す。



このチャンスをマルスが見逃すはずもなく、動揺している盗賊を斬り殺す。



それに続くように、エルも盗賊を殺す。



マルスが2人目を殺したときだった。



「危ない!」



その声に反応し、後ろを振り向こうとするも、時すでに遅し。



いつものマルスなら避けられただろうが、魔力を使いきり万全ではないマルスでは避けることができない。



マルスが死を覚悟するも、奴がまた助けてくれた。



残る盗賊は1人となるも勝ち目がないとして投降した。



「ありがとう。助かった。」



マルスは、助けに来てくれた人にお礼を言う。



「いえ、当然のことをしたまでです。」



「いや、本当に助かった。このままでは殺られるところだった。」



「マルス、もう大丈夫なのですか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る