第25話.あの日の出来事

「エリナ様、疲れたでしょう。ゆっくりお休みください。」



「ええ、ありがとう。マルス。」



今、ロースター家で行われていた舞踏会が終わったところだ。



なぜ舞踏会に来ているのかというと、ロースター家から舞踏会に招待され、行かなければならなくなったからだ。



ロースター家当主の息子であるガルネクは、私の婚約者候補の一人である。



年齢は私より6つ上の20歳である。



アルベルト家は貴族の中でもトップに位置する。



誰もが、その力を求め、私と婚約し、友好関係を築こうとしている。



そのせいで、私の婚約者候補は10人いる。



私はもう14歳だ。



いつ、結婚させられてもおかしくはないが、心に響く人は誰もいない。



貴族だから政略結婚なんて当たり前だけど、出来れば好きな人と結ばれたいと思っている。



母は、私が幼いときに病気で亡くなってしまった。



父は、貴族にしては珍しく母一筋の人で、側室などおらず、他に子供はいない。



そのためか、母が残してくれた形見として私を宝石でも扱うかのように、とても大切にしてくれていた。



だから、私が本気でこの人とは結婚したくないと言えば、取り止めてくれるかもしれない。



でも、今まで父にはお世話になった分、わがままは言いたくない。



そんな葛藤を抱きながら、日々を過ごしていた。



次の日の朝、早めにロースター家を出た。



ガルネクの舐めるような視線に耐えきれなかったからだ。



顔はそこそこイケメンだが、中身が最悪なのである。



結婚すれば、もちろん夜の営みもある。



もし、ガルネクと結婚したとき、そこで何されるか考えただけでも悪寒がする。



しかし、この日早めに出たことが裏目に出た。



マルスは先頭に馬乗り護衛してくれている。



そんな中、護衛の兵士達が騒ぎだしたのだ。



何事かと思い、馬車の窓から見てみると、オーガやゴブリンやオークの大群がこちらに接近してきていた。



オーガはランクAの魔物だ。



オーガはゴブリンやオーク達を襲い、奴隷として率いていることが多く、オーガがいるところには、必ずと言って良いほどゴブリンやオークがいる。



私の護衛として30人の腕のたつ兵士達がいるが、オーガにはマルスを除き誰も敵わないだろう。





◇   ◇   ◇   ◇   ◇




マルスを先頭に護衛しており、馬車を囲むように兵士達が歩いている。



オーガ達はその右翼から攻めてきていた。



「みな、引けー!お前たちでは敵わない!エリナ様を連れて逃げろ!」



マルスが指示するも、時すでに遅し、ゴブリンがこちらに矢を放っていた。



その矢に何人かの兵士が殺られた。



「ファイヤーウォール」



マルスは50メートルにも及ぶ炎の壁を作り、時間稼ぎをする。



この敵の数、真っ向から戦えば被害は大きくなる。



それよりは逃げた方が先決だろう。



「今のうちだ!撤退するぞ!」



マルスの炎の壁のおかげで、何とか逃げ切ることが出来た。



「なんとか生き残れた。」



「ああ、これもマルス様のおかげだな。」



兵士達がそんなことを言っているが、まだ終わっていなかった。



「グ、グリフォンだー!」



兵士の内の誰かが声を荒げて言った。



「今度はグリフォンだと!?」



マルスが驚きの声をあげる。



グリフォンはSランクの魔物だ。



Sランクに勝てる人ともなると一握りしかいないだろう。



グリフォン1体で街が滅んだこともあるほどだ。



「まさか、さっきのファイヤーウォールで誘き寄せてしまったのか!」



実はマルス達はオーガ達から逃げ切れたわけではない。



ファイヤーウォールに気づいたグリフォンが、オーガ達を一掃したのだ。



そして、オーガ達では物足りなかったグリフォンが、追いかけてきたと言うわけだ。



「うわぁぁぁぁー!」



グリフォンが空から猛スピードで近づいてきて一人の兵士を足で掴み空へと飛ぶ。



あの高さから落とされたら、兵士は死ぬだろう。



「助けてくれ!」



掴まれた兵士が助けを求めるが、どうすることも出来ない。



グリフォンはそんな兵士を、ごみでも捨てるかのように放り投げた。



グシャっとイヤな音が聞こえ、兵士がピクピクと動くのが壊れた人形みたいだった。



その光景に、みなパニックに陥った。



「落ち着け!エリナ様を逃がすことが先だ!森の中ならグリフォンも追っては来れまい!森に逃がすんだ!」



マルスがそう言うも、みな自分の命の方が大切だ。



大抵の兵士は、マルスの森に逃げれば大丈夫という部分しか聞いていなかった。



馬車の御者でさえも、馬車を捨て逃げる始末。



その命令に従うのは、忠誠心の高い1人の兵士だけだった。



その兵士の名は、エル。



エルは馬車まで行き、馬車を動かそうとする。



他の兵士は一目散に森のある方向へ逃げようとするも、グリフォンは逃げることを許さない。



逃げようとする奴を標的とし、次々と襲っていった。



それを見てエルは馬車を動かすのを止める。



今動かせば、馬車は目立つので真っ先に狙われるだろう。



「ブレイズサークル!」



グリフォンが動きを止めた一瞬の隙をつき、炎の檻に閉じ込める。



これで封じ込められたはずだ。



「今のうちだ!エリナ様を逃がせ!」



「わかりました!」



エルは馬車を動かし逃げようとするも、そんな甘くはなかった。



グリフォンは風魔法を使い、炎の檻を消してしまったのだ。



「な!風で炎を消すだと!?」



本来、火と風は相性が良い。



火と風を融合させれば、炎を援助し更なる強力な魔法となる。



なのに、そんな炎を風で消したのだ。



そこには、魔法の威力に多きな差があることを示していた。

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