零行列

 教室にはタイピングとファンの音が満ちる。一方私は音ゲーガルパをしていた。

 木曜二限、計算機プログラミングの演習だ。周囲はみな演習をやっている。しかし私はもうやりたくなかった。とてつもなく早い進度、役に立たない講義、なのに大量の課題。自習の方がいいように思える授業内容なのに、生活を圧迫されるストレスは大きかった。これを諦めれば楽になれるかな、と考えていた。


 翌週。目を覚ますと時刻は既に八時を過ぎていた。遅刻確定だ。

 ああ、うんこだ、と思った。自分の人生がうんこのように思えた。仕方ないから支度をした。うんこのようなリュックを背負い、うんこみたいな靴を履いた。ドアのうんこに手をかけて、うんこ式のドアを引いた。バスうんこの窓越しにうんこ色の世界が見えた。


 演習室のパソコンの前に腰かけた。白いマウスを見て、ああうんこだと思った。白いキーボードうんこをろくに叩きもせず、ツイッターで「うんこはしね」などと発言してその日も帰った。

 さらに次の週だったと思う。演習室には行かなかった。もう霜月も終わりのころだったから、朝はたいそう寒かった。これはいい言い訳になった。朝は寒いから起きられないし、だから授業に出られないのも仕方ない――

 この論理は他の曜日にもただちに適用された。自分に都合が良いアップデートは実に早く進むものだ。まもなく、英語(コミュニケーション)は欠席が確定した。火曜は二コマ続きの専門の授業だったため、二限から出るようになった。水曜は中国語だったから仕方なく遅刻して出席した。(そのせいで評価は悪かった。)

 聞かなくなってしまう講義もあった。聞けなかったのか聞きたくなかったのか、今となってはもう分からないが、力学と線形代数は授業中にツイッターと他の課題ばかりやっていた。授業外で勉強することもなく、結局、力学は中間試験を、線形代数は期末試験を欠席した。

 下校時、やはり藤が丘のビルを目前に、どうして自分は陸上生活部じゃないのかと自責した。輪廻転生リレーを誰よりも早く繋ぐ自信があった。来世の私に早くバトンを渡したい。

 十七コマ必修で埋まっていたはずの私の時間割は、気付けば十コマになっていた。

 たいそう楽な生活だったと思うのだが、精神状態は悪化するばかりで、ツイッターでしにたいとばかり呟く日が続いた。

 欠席ばかりしていても危機感はなく、留年するならすればいい、くらいに諦めていた。


 大学が本当に嫌だった。勉強するためのはずが自習の方がマシな内容ばかり。その上負担ばかりかけてくる。家族や大人からは大学生は楽でいいよな、と羨ましがられる。その実態は、社会人よりは楽かもしれないが、お金も出ない、役にも立たない作業を朝から暮れまでやり、土日にまで食い込む始末。何が羨ましいのか。同じ苦行ならお金が出る方がよっぽどマシだ。こんなことなら高卒で就職してしまいたかった。

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