物理学実験

 物理学実験は、化学実験に比べれば楽園であった。予習はしたほうがいいものの、時間内に実験して時間内にレポートを出すだけでよかった。ひたすらアルミホイルに点を打ち続けたり、振り子を二百回観察したり、最小二乗法の計算を延々としたりと、その内容は学生の精神にゆるやかな崩壊を促したが、生活を圧迫するようなことは一切なかった。

 実験はまたしても金曜日の四・五限であった。師走のころ、伸びをして実験室を出ると外は真っ暗だった。夜の寒さが身体に沁みて、疲れもあってか、こんな夜まで何をやってるのだろうかと自分がとても惨めに思えた。誰もいない学生ホールを通り抜けて、静けさの中惨めに身体を引きずった。

 全学棟のドアを抜け、見上げると、月があった。望月のようだった。あの月ではきっと体積分可能だ、と思うと不思議に安堵した。

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