回る隼人

鈴音

第1話 さよなら世界

ずっと前から好きだった。

思い出せない位の長い時間を共に過ごしてきた君。

僕は誰よりも君の近くにいたつもりだったし、誰よりも君を理解していたつもりだった。

誰よりも、君を想っている自信があったんだ。


ただ、僕は君と同じXY染色体の持ち主だった。

それだけ、たったそれだけで、この想いは禁忌とされていた。

君の隣、一番近くにいる、ただそれだけが僕の幸せだったのに。


「お!来てくれたか、隼人!」

君が本当に嬉しそうに、幸せそうに笑う。

ああ、神様、僕はちゃんと笑えているのだろうか、泣いてはいないだろうか。

彼の隣で幸せそうに笑っているはずの貴女の顔はさすがに見れなかった。見たらきっと、僕は君を幸せにしてくれる貴女を憎んでしまうから。


貴女はずるい。生まれながらにして君と結ばれることができる体を持っていて、君を幸せにできるんだ。

僕には絶対にできないことを、貴女は簡単にやってしまう。本当にずるい。

そうして貴女はあっという間に君を僕から奪い去っていってしまった。君の隣、僕の特等席を笑って持って行ってしまったんだ。

憎みたくなる気持ちも少しは分かるだろ?でも僕は君が本当の幸せを貴女から得たことを知っているんだ。

「二人ともおめでとう」

頑張って絞り出した祝福に身を裂かれるような、内側から燃やされていくような激しい痛みが僕の胸を襲う。

目の前で幸福に微笑む君たちから僕は逃げ出すように離れた。


生ぬるい潮風が僕の頬を撫でてゆく。

もはや他人のもののような体を引きずって、僕は会場の外へと向かう。

君は海が好きだった。だから、ここを選んだのだと僕は知っている。

華やかな賑わいを遠く背に感じながら僕は暗く静かな海へとゆっくり手を伸ばした。

僕は、どうしようもなく君が好きだから。僕の重要なパーツであるこれはどうしても捨てられないんだ。

ここにきてようやく頬を伝った涙は君の好きな海と同じ味がした。

僕はそれで幸福な気持ちになって心からの笑みを浮かべて、目の前の黒へと身を躍らせた。

さようなら、さようなら。僕がこんな気持ちを持っているのだといつか君が気づいてしまう前に、僕がそれを溢れさせてしまう前に。

君が、ずっと永遠に曇りなく幸せであるために。

さようなら、僕はここで君とお別れしよう。

遠くなっていく水面を見つめながら、混濁していく意識。

君が、遠くなっていく。もう二度と会えない。

くしゃりと僕は悲しみに表情をゆがめて、口に海水が入ってくるのにもかまわずに最後に君へと叫んだ。



本当に僕は、君が好きだった。ありがとう、だいすき。

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