第97話 ●「エルスティアの告白3」
皆がエル様の話に納得、いや納得・理解していない事の方が多いだろう。
その中でも自分としての決断をしていく中で、私はいまだに
エル様と賭け事をしてまで聞き出そうとしたのは私だ。
そしてエル様の口から語られた内容は、私の想像を超える内容だった。
けれど三年ほどとはいえエル様という言ってしまえば
なんせ今回の話をするにあたり一番最初に未知の技術で作られた本という証拠を見せつけられたのだ。
エル様が別の世界から転生してきたという話を嘘だ。と全否定する方が難しい。
エル様の貴族らしからぬ振る舞い。
前世ではただの平民――日本国民と言うらしいが――だった頃の記憶があるからと言うのにも納得できる。
自身を様付けで呼ばれる事を嫌う理由もわかった気がする。
そしてエル様とベルの説明では、どうやら私はエル様が転生前に神様に望んだギフトの三つの内の一つ『統率に優れた才能を持つ仲間』の保有者らしい。
なるほど確かに自分の能力を客観的にみても可能性は非常に高い。
同級生相手ではあるがいまだに戦術教練では無敗なのだ、その中にはもちろんエル様も含まれる。
非公式ながらインカ先生と時間制限ありでの模擬戦を行った際、最終的にはインカ先生による卓越した遅滞戦術で時間切れになったけれど、判定有利の結果にもなった。
自分の能力には今では強い誇りと自信がある。
かつてエル様からは一度、バルクス伯に戻るときに手伝って欲しいとスカウトされたことがある。
その際には、自身の能力が役に立つことが出来るのか?
という事と、お父様もエル様に付いて行くのか分からないといった不安要素が多く保留にさせてもらった。
エル様からも私がその気になったら教えてほしいと言われ、保留状態のままだ。
それ以降もエル様から強く催促されることは一度もなかった。
レイーネ事件の経験や日々の訓練の中で自分の能力にやっと自信が出来た。
さらにお父様とお母様もエル様がバルクスに戻られる際は付いて行くことが決まった。
お父様とお母様には、自分たちに付いてくるも兄様達の様に騎士団に入るも自分がどうするかは自由に決めなさいと言われた。
そしてあの時スカウトしてくれた事に答えを……『よろしくお願いします』と言うと決めた。
けれどその前にずっとエル様に感じた違和感、私と同じ十一歳とは思えない言動をするエル様。
エル様が何を思い、何を感じているのか? を知るために今回の賭けをお願いしたのだ。
まさかこれほど壮大な話になるとは思ってもみなかったが……
……いや、自分の中で引っかかっている事はそんな事(と言うには衝撃的な内容だが)ではないだろう。
分かっているのだ。自分が抱いているのは
そう、自分に与えてもらった『ギフト』への嫉妬だ。
『私はただ、ギフトを持っているからエル様にスカウトされたのではないか?』
『ギフトがなければ、私はエル様に求められる存在ではないのでは?』
その暗い思いが、心の中を
そして、そんなことを考える事自体に嫌悪する。
スカウトした理由を聞きたいという思いと、『ギフト』持ちだからという
「リスティどうしたの? 何か気になる事がある?」
そんな私にエル様が不安そうに声を掛けてくる。
……そうだ。今回のエル様の告白。
もっとも不安だったのは誰でもない、エル様なのだ。
自分が別世界からの転生である事――
この世界の人類が後九十年で滅亡する事――
そのために自分が出来る精いっぱいで抗おうとしている事――
まるで夢物語だ。
最悪こんな話をすれば親しい者達が、気味悪がって遠ざかっていくこともあり得たかもしれない。
けれどエル様は、正直
それは、どれほどの覚悟がいるのだろうか……私には想像すらできない。
であれば私もその覚悟に応えなければいけない。
「……エ、エル様は、いつから私がギフト持ちだと思ったんですか?」
少し震える声になってしまったが、エル様に尋ねる。
その疑問にエル様は少し考えるようなそぶりを見せた後、口を開く。
「もしかして? と思ったのは一番最初の戦術教練の時かな。
いやぁあの時の結果データは今思い出しても鳥肌が立ちそうだね。
本当に灯台下暗し……あ、これは前世のことわざでね……」
「待ってください。エル様。
戦術教練の時という事は私をスカウトした際にはギフト持ちと思っていなかったんですよね?」
「あ、うん。そうだよ」
それは私が求めていた答えだ。その事に少し安心する。
であれば、次に浮かんでくるのは疑問。
「であれば、なぜ私をスカウトしてくれたのですか?
あの時の私はエル様の期待するような力は見せていなかったのに……」
「そうだなぁ、バインズ先生の子供ってのはあるかもな。
僕としては出来れば卒業後もバインズ先生には手伝って欲しかったから。
家族がついて来てくれれば安心して手伝ってもらいやすくなるだろうし」
「そう……ですよね……」
その答えに私は少し心が痛くなる。
そうだ、私はお父様の……『疾風のバインズ』と呼ばれるほどの活躍をした騎士のオマケでしかない。
リスティという人間を見てくれているのではないか? と変に期待しすぎたのだ……
自然と目に涙が溜まってくる。それをエル様に見せまいと私は少し俯く。
けれど……エル様の言葉は続く……
「けどやっぱり一番の理由は、リスティだから。かな」
「え……私……だから?」
「うん、もちろんその時にはリスティの能力とか才能とか分からないよ。
でも今にして思えば、初めて会ったときに
エル様はその時を思い出したのか苦笑する。
私も当時を思い出し顔が熱くなる。われながらあの出会いは無かったことにしたい出来事だ。
でも……それが決め手だとエル様は言う。
「あの……できればあの時の事は無かったことにしたいのですが……」
「それは無理だよ。だってあの時、強く思ったんだ。
あぁ、爵位や階級至上主義のこの世界でも大事な家族のために怒る事が出来る勇気を持っているんだな。ってね」
あの時は、たとえ伯爵公子でも八歳の少年にお父様が頭を下げる姿が嫌だった。ただそれだけだった。
(その後の理由を聞いて赤面ものだったけれど……)
今でも思う。あの時、エル様でなければ私はどんな目にあっていたのだろうか? と。
そんな私の大失敗をエル様は好意的に見ていてくれた。それが複雑な感情ながらも嬉しいと思った。
「配下にするのであれば優秀であるに越したことはないよ。
けどね、僕が求めるのは配下である前に友達であって欲しいんだ。
そして友達に僕が求めるのは清廉なる心の強さなんだ」
「ともだち……」
そう、思い返してみればエル様は、家臣となる事を決めたアインツ君やユスティに対しても一度として配下や家臣として扱ったことが無かった。
入学する前はメイドとしてエル様のお世話をしていたというベルに対しても同じだ。
ただ、友として……親友として接してきていた。
そしてそんなエル様に私は――いや、ベルやメイリアもだろう――魅かれたのだ。
この人と共に生きていけば面白い事や楽しい事が
それはまだ恋心とは違う別物なのかもしれない……けれど……
私の心の中の
そして私の中で決心が出来る。
「エル様……いえ、エル。私のこの力の全てを懸けて、親友であるエルの目指す道を共に進みます。
どうか、存分に使ってください。」
今までの様付けからの呼び捨て。それは本来、忠誠を誓うのとは完全に逆行する行為。
けれどエルは…………笑う。
「うん、これからも親友としてよろしくね。リスティ」
――『うんうん、ベルもだけれど、いつかは僕を呼び捨てにしてくれると嬉しいですね』――
そう私達に言った時と同じような、心からの満面の笑みで……
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