第45話 ■「戦術教練してみよう1」

 戦術教練。


 その名の通り、戦術を実戦から学ぶための授業となる。

 よく戦略と戦術の違いが言われるが、戦略は、戦いに勝つために兵力を総合的・効率的に運用する方法で大局的・長期的視点での計画と言われている。


 戦術は、戦いに勝つために戦場での兵の運用と実行上の方策である。


 うーん、ざっくり言えば、戦略はお偉いさん方がどのように兵を集めどの侵攻ルートとするか?補給ルートはどうするか?を決める事。

 戦術は現場指揮官がその戦場で勝利するためにどのように兵を動かすか?

 を決めるって感じなのかな?


 僕としては某不敗の魔術師と呼ばれた人の


「勝敗などというものは戦場の外で決まるもの。

 戦術は所詮、戦略の完成を技術的に補佐するもの」


 と言う理論が好きだったりする。

 この考えは戦略至上主義なので戦術教練の点からはズレてるけどね。


 王国におけるお偉いさんは、公・侯爵クラスから輩出される。

 せいぜい、伯爵家から優秀な者――公爵達にとって都合がいい程度の――が何年かに一度入る程度。


 公・侯爵クラスの人は王立学校とは別の士官学校に入学するので王立学校では戦術をメインに学ぶことになる。


 もちろん貴族同士の領有権戦争であれば伯爵も戦略を練る必要があるけど重要度で言えば戦術論の方が高い。


 この戦術教練は、十年の全カリキュラムの中で最も時間配分が多い。

 というのも、この授業は実戦を想定した練習になり、時間がかかるのだ。

 高学年になれば一週間かけて一戦の練習をする。という事もある。


 机上の空論で終わらない分、まだましだろう。

 戦術は、本で習うのと実際に実践するのでは大きな差がある。

 戦場における勘と呼ばれるものも結局は長年の経験が重要なわけだし。


 王国にとっては、国力で比肩する帝国とは友好を結んでいる。

 なので目下の外因的脅威は東方のベルカリア連邦となる。

 近年では征服論まで出てくるほど主戦派の発言力が強まっている。


 ここにも後継者問題が絡んでいるようで、より戦果を挙げたものが王座に近づく……なんて噂も出ているほどだ。


 王国には騎士団といった常備兵もいるが数としては圧倒的に少ない。

 なので農民兵が軍の九割を占める。


 常備軍は、言ってしまえば戦争が起きなければ、無駄飯食い扱いされる。

 それを維持・管理する事はそれなりの国力が無いと難しい。


 軍として求めるのは、普段武器を持たない農民兵を率いる実戦指揮官だ。

 なので実戦指揮官の卵の養成が王立学校でも急務となっている。


 教練自体も非常に本格的だ。

 五m×十五mの長方形のテーブルを五m×五mの正方形に三分割しそれぞれを間仕切りしてある。


 そして分割した所に同じ地形のジオラマパネルを三枚はめ込む。

 これで戦場の出来上がりだ。

 ジオラマパネルも色々な地形パターンで何十種類もあるらしい。


 三分割した両端にそれぞれ対戦者が座るので間仕切りによって相手のパネルを見ることは出来ない。


 イメージとしては、海戦ボードゲームかな?

 海戦ボードゲームとの違いは真ん中の部分に視聴用のパネルがある事だ。


 パネル自体、百×百の賽の目に線が引かれている。

 X軸とY軸に分割されていると思ってもらえばいいかな。


 そこに配置可能範囲の条件付きで、本陣・物資場、決められた数の駒(部隊)を初期配置する。

 相手がどのように配置するかを読みあいながらという形になる。


 視聴用のパネルにはお互いの配置場所に同じように駒が置かれるのでよく関ヶ原合戦で見られる軍勢配置図の感じになる。


 高学年になると駒の数も数十個になるので非常に壮観なものになるそうだ。


 一ターンあたり教練時間内で十分経過となる。

 つまり六ターンで一時間という設定だ。


 ターンが長引けば、日が暮れて夜になると昼夜の概念が存在する。


 ターンごとの持ち時間は、五分でその間に駒に対する指示を考えて判定教員に対して、対戦相手に指示内容がわからない様に紙ベースで伝え指示に沿って、判定教員がターンごとに駒を移動させることになる。


 さて、相手の駒が見えないのにどうやって戦うの?

 というのは視認判定で行われる。


 例えばAという駒が10,10の位置にある場合、

 決められた範囲内(10,9・10,11…)に敵の駒がいれば視認したとして自分のパネル上に相手の駒が配置される。

 視認判定外に出た場合には相手の駒は除かれる。


 RTSゲームで視認できる部分は明るく、視認できない部分が暗くなるやつを手作業でやっているイメージに近い。


 この視認判定には昼夜・天気設定・高低差も加味される。

 直線距離的には近いけれど目の前に丘があるから見えない。


 といった感じだ。


 なので高度が高い位置に部隊を配置すれば視認範囲は劇的に広がる。

 戦場において物見のために高い場所を奪い合うというやつの再現だ。


 駒への指示も、指示と同時に動き出す……というわけではない。

 本陣からの距離によって実際に動き出すまでのタイムラグ(何ターン後に開始)がある。


 本陣から近ければ手旗で、遠ければ早馬で指示伝達をしている。

 ってやつの再現らしい。


 指示自体も即実施という指示も出来れば、教練時間内で十二時になれば進軍開始というように予約指示も出来る。

 進軍位置も複数の経由地の指定もできるようになっている。

 敵と遭遇した際、積極的に戦うか逃げるかも選択できる。

 細かく指示しておけば欺瞞ぎまん撤退も可能だそうだ。


 一ターン内に駒が移動できる距離も決まっていてそこにも高低差や昼夜が影響する。


 駒自体にはヒットポイントと前後左右の概念がある。

 前から攻撃を受ければ被害は少ないけれど後ろから攻撃を受けると被害が増えると言った感じだ。


 複数攻撃を受ければ被害が大きくなると包囲殲滅も可能という本格派だ。


 まぁ、このようにルールが非常に複雑だから判定する教師は分厚いルールブック(ジオラマパネル毎に違う)を手にしている。


 僕としては、三国志や某野望が高い人のゲーム内の合戦を手作業で再現しているような感覚だ。


 うーん、これって商品として売り出せるんじゃないか?

 あぁ、ここにパソコンさえあれば、プログラミングしてゲームにしたい!


 教練机は十ヶ所、クラスの人数は六十人なので三回に分けて実施する事になる。

 僕とベル、リスティは二回目の組になっている。


 今回は、初めての教練なので駒数は五個と少ない。

 戦場自体も五十×五十と四分の一の範囲に絞って行う感じになっているから、実際には短期間で勝負がつく。


 弱小国家同士の戦いって感じかな。

 戦術とは何か? も学んでいない状態なのでどうやるのかのお試しに近い


 実際、一回目の組はただ駒を前進させて相手を見つければ突撃! といった状態だ。


 僕としてはゲーム知識があるからいくつかの作戦を思い浮かんでいるけど実際にやってみると本当にできるのかどうかは分からない。


 けど……久しぶりにゲームをする感じになるからめちゃくちゃ楽しみだ!

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