メロンを買う男
天照てんてる
メロンを買う理由
――昨日の予選で、なんとかいう名前のメロンが2着だったな。名前も思い出せないが、なかなかアツい勝負だった。あと車輪1つ分前に出ていれば、差されなければ、百万車券まであったんじゃないか?
俺はそんなことを考えながら、今日の出走表を見る。どうせあいつはまたメロンだ、準決勝3レースのうちのどれかにいるメロンを買えばいいんだ。メロンのアタマで、ヒモは適当に流しても元を取れるだろう。
まぁ、外れても別にかまやしないのだ、どうせ遊びで買う車券、勝ったところで夜の街に消えていくだけの
準決勝のメロンで昨日2着だったのは……っと、こいつか。そうだ、鈴木、そんな名前だった。ありふれすぎていて忘れたんだ。
メロンは今日もマイペースに走るだろうな。ラインの後ろの選手のことをお構いなしにブンブン仕掛けていたじゃないか、昨日は。最近デビューの新人にはよくあることさ。ましてや特別昇班で上がってきたような選手なら、戦い方もわからずにただ走るだけなんだ。
ということで、6の後ろは千切れて、37ラインが来るかな、25ラインが来るかな。
高そうな方にしておこう。俺は6-25-2357とマークシートを塗り、各1000円、6000円の車券を買った。
・
・
・
残念ながら、車券は的中しなかった。メロンは何故か番手差しで1着を取った。6-1-4と、アタマこそメロンではあるものの、さしたる配当も付かない四国ライン独占でのフィニッシュだったのだ。
あれだけイケイケの逃げ選手が、なぜ番手に居たんだ?
考えてもわからないので、せっかくだから決勝もメロンから買うことにした。明日の番組は――へえ、師弟対決か、面白そうじゃないか。いつものようにオッズや新聞をアテにせず、選手紹介まで見てから車券を買うとしよう。
・
・
・
選手紹介で、俺は頭が痛くなった。
なぜ師弟で競り合いをしているんだ?
あの鈴木とかいう選手、実はただのバカなのか?
が、まぁ、買うと決めたからには買う。
メロンが競り合いに勝って師匠はいなくなって、今日も番手差しでフィニッシュ! これだ!
俺は、6-3-7の一点に、5000円張った。そして不安になって、6-8-3と6-8-7を1000円ずつ追加した。
レースは俺の注文通りに進んだ、が――もう脚をなくしているのか、さすがにあれだけ競り合いが続いては――いや、
「メロンたまにはいいとこ見せろやー!」
ありったけの大声で、叫んでみた。ガラにもないが、他に応援するすべを知らなかったし、たまには叫んでみたくなったのだ。
8号車はもうどこにも見えなくなっていた。3の後ろにぴたりと付けるメロン、後ろから迫ってくる5、捌かれていなくなる5、そこに飛び込んできた7、そして――
結果、6-7-3で、20万車券。俺は、3日続けて泡銭を溶かして、終わった。
メロンを買う男 天照てんてる @aficion
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます