【第三章】第1話:掲げた仁義
【sideカズマ】
どこの誰が(どうせ日本から来た転生者だろうけど)どういう意図で(どうせ悪ノリだろうけど)名付けたのかは知らないが、ふざけた名前とは裏腹に世界中の人々に恐れられる賞金首がいた。
機動要塞デストロイヤー。
その大物賞金首は先日、このアクセルの街が誇る屈強な冒険者達が一丸となって無事撃破に成功し、その賞金が配られるというのでこうしてギルドにやってきていたのだが―
「冒険者、サトウカズマ!貴様には現在、国家転覆罪の容疑が掛けられている!自分と共に来てもらおうか!」
なんだか俺の預かり知らぬところで実に奇妙な状況になっていました。
「……ええっと、どちら様?ていうか、国家転覆罪って何?俺、賞金を受け取りに来ただけなんだけど」
険しい表情をした目の前の女に、俺はおずおずと尋ねてみる。
賑やかにざわめいていたギルド内は、両隣に二人の騎士を従わせた女の言葉によりシンと静まり返っていた。
「自分は王国検察官のセナ。国家転覆罪とは文字通り、国家を揺るがす犯罪をかでかした者が問われる罪だ。貴様には現在テロリストとしくは、魔王軍の手の者ではないかとの疑いが掛けられている」
セナと名乗った美人なんだけど明らかに性格キツそうなその女は、そう言いながら俺に厳しい視線を向けてきた。
「ええっ!?ちょっとカズマ、また一体何をやらかしたの!?私が見ていないところで、どんな犯罪をしでかしたのよ!ほら謝って!私も一緒にごめんなさいしてあげるから、ほら早く謝って!」
「このバカ!俺がそんな罪を犯す訳がねーだろ!大体、普段ほとんど一緒にいるんだから、俺が何もしてないほお前がよく知ってるだろ!」
セナの言葉を鵜呑みにし騒ぐアクアを叱りつける中、めぐみんとみんちゃすのチビッ子コンビが。
「おいこらこのクソ眼鏡。いきなりしゃしゃり出てきては俺達の頼れる…頼れる?……まあぶっちゃけ大して頼りならねーけど、一応はリーダーであるカズマに、随分な言いがかりをつけてくるじゃねーか」
「何かの間違いではないですか?カズマは、セクハラとこ小さい犯罪はちょくちょくやらかしますが、そんな大それた罪に問われることをする程、度胸のある人ではありませんよ」
「お前ら俺の擁護をしてるのか喧嘩売ってんのかハッキリしろよ」
俺がチビ共にツッコむと、続いてダクネスまでもが…
「確かにこの男がそんな大それた罪を犯せるとは思えんな。そんな度胸があるのなら、普段屋敷内を薄着でウロウロしている私を、あんな獣の様な目で見ておきながら何もしないなんて事はないはずだ。夜這いの一つも掛けられないヘタレだぞこの男は」
「べっ…べべべ別に見てねーし!?お前自意識過剰なんじゃねーの!?ちょっとエロい体してるからって図に乗るなよ、こっちにだって選ぶ権利ぐらいあるんだぞ!」
俺のその言葉にダクネスはサッと顔を赤く染め。
「き、貴様、風呂場では私にあんな事までさそておいて、今更そんな……!」
「あの時はサキュバスに操られてたからな!お前こそ、雰囲気に流されて俺の背中流してたくせに!なんなの?ひょっとしてちょっと期待してたの?どんだけチョロいお手頃女なんだよお前は!」
「おおお、お前やっばり記憶があるんじゃないか!それに、エリス様に仕える身であるクルセイダーの私は、まだ清い体のままだ!それをチョロいお手頃女だと!?ぶっ殺してやる!」
「あのな、一応緊迫した状況なんだからさー……不毛な争いしてんしてんじゃねーよオメーら」
物騒な事を言いながら首を締めようとするダクネスを、呆れた表情のみんちゃすが片手でせき止める。
そしてその状態でみんちゃすにアイコンタクトで説明を促され、今の騒ぎを見ても眉一つ動かさなかったセナが冷たく言い放った。
「その男の指示で転送された、機動要塞デストロイヤーの核であるコロナタイトが、この地を治める領主殿の屋敷に転送されました」
その一言にギルド内が今度こそ静まり返った。
コロナタイトって確か……デストロイヤーとの戦いで爆発寸前だったあの石だよな?ウィズに指示してテレポートの魔法でどこかに転送させたのは確かに俺だが、領主の屋敷にって……まさか!?
「なんて事だ、俺のせいで領主が爆死しちまったのか……!」
「おっしゃザマ…いやいやそりゃあ一大事だな、うん。アア、ナントイウコトダー」
「勝手に殺すな!使用人は出払っていた上に、領主殿は地下室におられたとの事で、幸い死者も怪我人も出ていない。……屋敷は吹っ飛んでしまったがな」
「チッ、死んでねーのかよ……」
本気で残念そうにするみんちゃすはさておき、怪我人もいないと聞いた俺はホッと息を吐く。
「それじゃあ、今回のデストロイヤー戦での死傷者はゼロって事か。良かった良かった」
「良いわけあるか!貴様、自分が置かれている状況を理解しているのか!?領主殿の屋敷に爆発物を送り、屋敷を吹き飛ばしたのだ。先程も言ったが、今の貴様にはテロリストか魔王軍の手の者ではないかとの嫌疑が掛かっている。……まあ、詳しいことは署で聞こう」
セナの言葉に静まり返っていたギルド内がざわめきだした。
それもそうだ、ここにいる冒険者達は俺の人柄を、そして今回のデストロイヤー戦での俺の活躍をよく知っている。
「ふ、何かと思えば……。カズマはデストロイヤー戦においての功労者の一人ですよ?確かに石の転送を指示したのはカズマですが、あれだって緊急の措置という事で仕方なくやった事です。カズマの機転が無かったら、コロナタイトの爆発で死者だって出ていたかもしれません。褒められはしても、非難される謂れは、ありません」
「テメーら
めぐみんとみんちゃすの言葉に、ギルド内のあちこちからそうだそうだと声が上がる。
お、お前ら……。
俺が軽く感動していると、セナが冷たく言い放った。
「ちなみに国家転覆罪は、犯行を行った主犯以外の者にも適応される場合がある。裁判が終わるまでは、言動に注意した方がいいぞ。この男と共に牢獄に入りたいというのなら止めはしないが」
「……あ”?」
セナの言葉に、ギルド内が再びシンと静まり返った。何やら一変した空気を一切気にも留めず、眉を吊り上げ両目を輝かせたみんちゃすが-
「舐めてんのかテメー、それで俺達を脅してるつもりなら-」
「……確か、あの時カズマはこう言ったはずよね。『大丈夫だ!世の中ってのは広いんだ!人のいる場所に転送されるよりも、無人の場所に送られる可能性の方が確率は高い!大丈夫、全責任は俺が取る!こう見えて、俺は運が良いらしいぞ!』」
セナに啖呵を切ろうとしたのを遮り、アクアがそんなことをポツリと言った。
……確かに言ったが、こいつは普段バカのクセに、どうしてこんな時だけちゃんと記憶しているんだろう。
……ていうか、
「アクア。お前まさか、本気で俺一人に全責任を被せる気じゃ……ない……よな……?」
俺の問いに答える事なく、アクアは気まずそうに目を逸らす。
「も、もし私がその場にいれば、きっとカズマを止められた筈なのに……しかし、その場にいなかったものは仕方ありません。エエ、シカタアリマセンネー」
めぐみんが誰も聞いてもいないのに、そんな大きな独り言を言い出した。
「おい待て。お、お前らまさか……」
まさかこいつら……!
と、俺を庇う様に、ダクネスがセナの前に出る。
「待て。主犯は私だ、私が指示した。だからぜひとも、その牢獄プレイ……もとい、カズマと共に連行し、厳しい責めを負わせるがいい!」
「あなた、ずっとデストロイヤーの前に立ったままで、何の役にも立たなかったそうじゃないですか」
「!?」
バッサリと傷を抉られ、ダクネスが涙目になってこちらを見るが、役に立たなかったのは本当だし、今はそれどころじゃないので放置する。
アクアもめぐみんも完全に俺をスケープゴートにする算段でいるみたいだし、ダクネスはこの通り役に立たない。やはり今回もいつものようにみんちゃすに頼るしか……
と、そんな俺の視線を察したのか、みんちゃすは不敵な笑みを浮かべて、
「そんな今にも捨てられそうな犬みてーな目すんなよ。……安心しな、こんなクズ共に大事な仲間を引き渡さす訳ねーだろうが」
俺を庇うようにセナの前に出た。
「ちょ、ちょっとみんちゃす!いきなり何言い出してるのよ!犠牲が一人で済むならそれに越したことはないじゃな-」
「仮にも女神を騙るんなら、不当な犠牲が出ることを良しとしてんじゃねーよボケが。だからアクシズ教はいつまでもドマイナーなんだよ」
慌てて止めに入ったアクアに、みんちゃすは強烈な言葉のボディブローを浴びせて凹ませた。
セナは、そんなみんちゃすに厳しい視線を向ける。
「貴様……先程から我々に吐いた暴言の数々といい、よほど牢獄に放り込まれたいようだな」
「牢獄行きだ?……ハッ、出来るもんならやってみろ、この行き遅れ女が」
「二人まとめてひっ捕らえろ!」
「行き遅れ」と言うワードに過剰に反応し、鬼のような形相になったセナの指示を受け、両隣にいた二人の騎士が俺達を捕まえようとこちらに-
来る前にみんちゃすが一瞬で二人に接近し、それぞれの胸ぐらを掴み上げ、
「ぐっ……!?」
「き、貴様抵抗する気-」
「寝てろ、カス共」
そのまま地面に背中から思いっきり叩きつけた。
「「ごほっ……!?」」
「なっ-きゃああっ!?」
みんちゃすの怪力で背中から強打した騎士の二人は苦悶の呻きを上げ、唖然とするセナにみんちゃすは足払いをかけて転倒させ、いつの間にか鞘から抜かれていた『雪月華』の刃を首筋に添えた。
「ロイヤルナイツの連中ならまだしも、たかだが王国騎士二人ごときで、この俺をどうこうできるとでも思っていたのか?だとしたら実におめでたい奴だよオメー。……おい、そこで転がってるカス共。妙な真似しやがったらこいつの首が飛ぶぞ?大人しく地面に這いつくばっていろ負け犬共が」
「な……っ!?」
「お、おのれ……!」
起き上がろうとする騎士達の方も見もせず、みんちゃすは事も無げにそう脅迫する。……相変わらず理不尽な強さと言動だ。
「き、貴様……私は王国検察官だぞ!?その男への裁判は国が決定したこと……それを妨害し、あまつさえ私を手にかけるということは、言わばこの国そのものへ反旗を翻すということだぞ!?それは国家反逆罪に該当することだとわかっているのか!?」
「あー?だからどうしたって話だ」
刃を当てられて顔を青くしながらも気丈にそう言い放ったセナに、みんちゃすはせせら笑いながら一蹴し、空いている方の手で『雪月華』を握る腕に巻き付いている、赤い包帯をスルスルとほどいていき、
「国家反逆罪?ハッ、知ったことかよ。濡れ衣着せられた仲間見捨てるくらいなら、国の一つや二つくらい滅ぼしてやろうじゃねーか。それが俺の……いや、
そして現れた素肌には、雲がかった三日月と長ドスがXに交差するマークのタトゥーが刻まれていた。
それを見たアクアが、めぐみんが、ダクネスが、ギルドにいる冒険者達や横たわっている騎士達、そしてセナ……俺を除くその場全ての人間が驚愕の表情を浮かべた。
……え?あのマークってそんなに有名なの?
目の前で見せつけられたセナが、信じられないといった声色言葉を紡ぐ。
「そ、そのマークは……まさか貴様、月代組の!?」
「御名答。……それじゃ紅魔族の流儀に従い、名を高らかに名乗らせてもらおうじゃねーか。
我が名はみんちゃす!『月代組』最高戦力『六鬼衆』が一角、『修羅』の席を預かる者……!」
懐から鬼の面を取り出し側頭部にかけつつ、意気揚々と恒例の名乗りを上げるみんちゃす。
……いや、そもそも月代組ってなんだよ?
「カズマ。月代組っていうのはね、かつて暗黒街と呼ばれた街、治外法権独立経済都市クリアカンを拠点に活動する、この国……いえ、この世界最強のヤクザグループのことよ」
俺の疑問を察したのか、いつものようにアクアが俺の耳元で説明してくれた。
ええと、それってつまりみんちゃすは……ガチで仁義の道の人だったってこと!?
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