第二章・エピローグ

【sideみんちゃす】


デストロイヤー撃破から数日後、俺とカズマは街から離れた平原にて、めぐみんの日課に付き合わされていた。


あかよりあかく、あかよりあかき紅蓮の華よ。

古より伝わりし天地開闢の理のもと、

闇を照らす暁となりて咲き誇らん。

虚無と無限の狭間歪む時、

混沌の内より出でし原初の力よ、

偏く三千大千世界を灰塵に帰すがいい!


『クリムゾン・エクスプロージョン』ーーーッッッ!」


俺との熱い議論を経て完成した口上を述べつつ、めぐみんは俺の闘気による補助を受けて完成した紅蓮爆裂魔法を、『雪月華』で生成した大氷塊に向けて放ち跡形も無く消し飛ばした。

「はふぅ……カズマ、今日の出来はどうですか?」

「ふむ……アクアのバカげた魔力で撃っていないせいか、規模は通常の爆裂魔法とそこまで差は無いな。……が、その分爆発の威力にムラがなく均等な破壊力を実現させている。そのコントロール力を加点して……118点ってところだな」

「フッ、流石はカズマですね。私の自己評価も概ねそれぐらいの点数です」

「……あのさー、なんで俺まで付き合わされてんだよ?しかも大量の闘気をドブに捨てさせられるオプション付きで」

使いようによってはドラゴンを半ダースは狩れるくらいのエネルギーを、こんな茶番に注ぎ込まされるのは正直言って大いに不満だ。

「今日はこの後ギルドに呼ばれているので、クエストに行かないし良いじゃないですか。……というかみんちゃすの思い付きのせいで、今まで知らなかった新たな境地に目覚めてしまったんだから、きちんと責任を取ってください」

「知るか」

「誤解を招くめぐみんもアレだが、それを一蹴する辺りが実にみんちゃすらしいな……」

あのときのことは正直かなり後悔している。あの思い付きを実行したせいでまる一日昏睡状態になるわ、起きたら起きたでこうしてまた紅蓮爆裂魔法を撃ちたいとか執拗にせがまれるわ……次からはもう少し慎重に行動しよう。

「むう……やはり私も闘気術を習得するべきでしょうか」

こいつも歴とした紅魔族だから、理論上は紅蓮の闘気クリムゾン・オーラを習得できる。しかしそれは決して容易なことではない。

そもそも何故紅蓮の闘気クリムゾン・オーラなんて紅魔族の琴線にダイレクトに触れる代物が廃れたのかと言えば、魔法使いの才能に恵まれるが身体能力は平凡な紅魔族に、肉体の鍛練の果てに目覚める闘気術の性質が絶望的に噛み合わないからだ。仮に鍛練に鍛練を重ねた末に習得したとしても、スタミナ無いからあっという間にガス欠するので実用性皆無だし。

めぐみんも一般的な紅魔族と同様……いや、元欠食児童でおまけに体育をサボりまくっていたこいつが紅蓮の闘気クリムゾン・オーラを発現させるのは、下手すれば魔王を倒すよりも難しいかもしれない。習得したら用途はどうせ爆裂魔法の強化だろうから、ある意味ガス欠の心配はするだけ無駄だがな(どうせ一発でガス欠すると確定しているという意味で)。

「ま、本気で習得したいんだったらなら、オメーはまずは体を鍛えなきゃな。とりあえずそうだな……生半可な前衛職にもひけを取らないレベルにまでなったら、本格的に鍛えてやるよ」

「ハードル高くね?」

「高くねーよ、むしろ最低ラインだ」

それぐらい軽くこなせなきゃ、魔法使いが闘気術なんて夢のまた夢だ。

「フッ……望むところです!紅魔族随一の天才たる我にかかれば、そんなこと朝飯前だとお教えしよう!」

不適な笑みを浮かべながら、杖を構えて堂々と宣言するめぐみん。……寝そべりながらじゃなけりゃ、格好も付いたんだろうな。

「……ん?イザヨイ?」

連絡を取り合う際に用いる手段の内の一つである、『月代組』の伝令鷹が俺の元に飛んできた。この国で何かしらの大きな事件が起きた際、必ず文書を携えて各組員に配って回る役割がある。

イザヨイは俺に文書を渡すと、すぐさま再び空へ駆けていった。マルチェロが飼い慣らしてるだけあって、相変わらず生真面目な鳥だな。

「おーいみんちゃす、そろそろギルドへ行く時間だぞ」

「んー」

めぐみんを背負ったカズマに返事をしつつ、俺は伝書の封を切り中を確認した。

何々……アクセル領主の屋敷が謎の爆発で全壊だと?物騒なこともあるもんだな…………爆発?


んー…………流石に考え過ぎかね?





【sideカズマ】


俺達がついた頃には既に、冒険者ギルド内は異様な熱気に包まれていた。その理由は言わずとも、この熱気で分かるというもの。

冒険者達の期待に満ちた眼差しが、ギルド職員に向けられる中。

「カズマ。今さら私が言う筋合いじゃ無いかも知れないが、改めて礼を言う。よくこの街を守ってくれたな。……どうも、ありがとう……!お前には、いつか私の事を話したいと思う。なぜ私が、この街を守りたいと言っていたのかを」

そう言って私服姿のダクネスがはにかんだように笑みを浮かべてきたので、俺もダクネスに向け言葉を返す。

「そういやお前、今回やたらと格好良かったな」

突然の俺の言葉にダクネスは、デストロイヤーを前に一歩たりとも引かなかった、あの時の自分を思い出したのか、

「そ、そうか……」

ちょっと頬を赤らめながら、照れ臭そうに顔を背ける。

……そんなダクネスに、俺はハッキリと言ってやった。

 

「一番何もしなかったけどな」

「!?」


俺の言葉に、ダクネスは顔を背けた状態でビクリと震えた。

「そういえばダクネスは今回、ずっと街の前で立ってただけねー。私は頑張ったわよ!結界破ったし、カズマの傷も治したし、めぐみんに魔力を分けて上げたりね!」

いつの間にか寄って来ていたアクアが、ダクネスに向けて特に悪気も無く言った。

ダクネスは更に身を震わせる。

「私はもちろん、日に二発も爆裂魔法を撃って大活躍でしたからね。しかも二発目はデストロイヤーを跡形も無く消し飛ばしてやりましたから!」

同じく特に悪気も無いめぐみんが言った一言に、ダクネスは更に身を震わせる。

「そう言えば、カズマさんこそ大活躍だったじゃないですか!見事な指揮を執って、ちょっと失敗はしましたが、結果としては大物のゴーレムを倒したりコロナタイトを鉄格子から取り出したり、そして私に魔力を供給してくれて……」

これまたいつの間にかやって来ていたのか、やはり全く悪気など無いウィズの言葉に、ダクネスは耐えられなくなったのか、肩を震わせ顔を伏せた。

「ウィズなんて、爆裂魔法を始め、俺の手を冷やしたり、挙句の果てには爆発しそうなコロナタイトをテレポート……MVPはみんちゃすかウィズだろ」

ダクネスはとうとう小さく震えるだけになった。

「……で、街を守るって駄々こねてた、今日のお前の活躍は?」

「こっ、こんなっ!こんな新感覚はっ!……わあああああーっ!!」

俺の言葉に顔を真っ赤に染めながら顔を覆ったダクネスに、デストロイヤーのレーザー砲撃を抑え切り、ゴーレム及び召喚陣から涌き出てくるモンスター数百体を討伐、及び強敵ヤマタノオロチを召喚陣ごと粉砕し、そしてめぐみんと協力してデストロイヤーを消し飛ばすと終始に渡って大活躍したみんちゃすが、


「やめとけオメーら、こいつが役立たずなのは今に始まったことじゃねーだろ。産廃の癖にプライドや使命感だけは一丁前に高いんだよ。いい加減身の程を知れって言いたい気持ちはわかるけどよ、正直惨めすぎるからそう追求したりせず放っておいてやれや」

「うわああああああーーっっっ!!!」


悪気100%のフォローでトドメを差し、ダクネスは顔を覆ったまま涙目になりつつその場にしゃがみこんだ。サディストにも程があるだろ……。

俺達がみんちゃすのドSっぷりに戦慄していると、突然ギルド内のざわめきがピタリと止んだ。辺りを見渡すと、ざわめきが止んだ原因が目に入る。

そこには何故かどことなく暗い顔のギルド職員の隣に、二人の騎士を従えた黒髪の女性が立っていた。

……なるほど読めたぞ。今回倒した賞金首は魔王の幹部どころじゃない。かつて最強と謳われた魔法使いが構築した魔導技術の結晶であり、長きに渡って各地の街や国々をおびやかしてきた大物中の大物だ。

なのでギルド員ではなく、この国の騎士様直々に報酬を貰えたりするのだろう。

いや下手したら、騎士にならないか?みたいなスカウトにでも来たのかもしれない。

俺達が期待に満ちた表情で見守る中、その女性はこちらを真っ直ぐに見つめてきた。

その視線は間違いなく俺を捉え、その眼差しは決して軽いものではなく、とてつもなく情熱敵なものだった。

そう、喩えるならば……


―不倶戴天の敵を見るかのような、非常に敵意に満ちた厳しい眼差し。


「冒険者、サトウカズマ!貴様には現在、国家転覆罪の容疑が掛けられている!自分と共に来てもらおうか!」



第二章・完

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