第21話:機動要塞の脅威④

【sideみんちゃす】 


「オイ、これ無理じゃねえか? いけるのか?絶対無理……いや待てよ、いけ……る?……いややっぱ無理だろこれは!」

カズマ達の近くにいる誰かが滑稽なほど慌てている。オタオタしてんじゃねーよバカタレが。冒険者ならピンチのときこそ、クールに思考を巡らせやがれ。

「「『クリエイト・アースゴーレム』!」」

クリエイター共が地面の土でゴーレムを作り出し。ワガママ言って一番前の方でつっ立ってるララティーナの背後へと、付き従う様に整列した。

……言っちゃ悪いがゴーレムと言っても、所詮は駆け出しレベルが作った粗製濫造品。数を絞ってより強いゴーレムを作ろうと工夫してある努力だけは認めてやるが、はっきり言って壁役にすらならないだろう。

「でけぇ!それに速えぇ!予想以上に怖ぇぇぇ!!」

近付いてくるその巨大な姿に、冒険者達がパニックを起こしかけていた。……チッ、わかっちゃいたがやっぱ足手まといだなこいつら。

「来たぞー!全員、頭を低く!踏み潰されないように、絶対にアレの前には出るんじゃないぞ!」

多少マシな奴がそう檄を飛ばすが、阿鼻叫喚に陥った雑魚共には響かない。

恐怖や不安、混乱は周囲にもどんどん伝染する。喚き散らすしか能がないなら、さっさと尻尾巻いて逃げろってんだよバカヤロー。

「ちょっとウィズ!大丈夫なんでしょうね!大丈夫なんでしょうね!?」

俺の左後方で待機しているアクアが、隣に佇むウィズに何度も何度も確認している。

「大丈夫です、任せてくださいアクア様。これでもリッチー、最上位のモンスターの一人ですから。アクア様がアレの魔力結界を打ち破ってくれれば、後はお任せを!……もし失敗したら、皆で仲良く土に還りましょう」

「冗談じゃないわよ!冗談じゃないわよ!!」

確かに冗談じゃない。俺はこんな所で死ぬつもりはないし、ついでに誰も死なせるつもりもない。……念のため高品質マナタイトを大量に持ってきたし、いざとなったら逃げ遅れそうな奴は片っ端からテレポートさせるしかねーな。

そんなことを思案していると右後方で待機しているカズマが、ガッチガチに緊張しためぐみんに、

「おい、ちょっと落ち着け。失敗しても誰も責めないさ。失敗した時は街を捨て、皆で逃げればいいだけだ。あんまり深く考えるな」

そう気楽に言った。カズマの言う通り、最強の賞金首であるデストロイヤーを討伐できなかったことを責めるような奴は、脳に蛆でも沸いているとしか思えない。が、今のめぐみんにそんな言葉は焼け石に水だ。

「だだだだ、だい、大丈夫です!わわわ、我が爆裂魔法で、消し、消し飛ばしてくれるわっ!」

やはりめぐみんのガチガチモードは収まらない。こいつ昔からここぞというときこうなるよな……仕方ない、ここは俺が-


「来るぞー!戦闘準備ー!!」


しかし俺がめぐみんに檄を飛ばす前に、決戦の時間が来てしまった。

今の声は確か、リーンやチンピラのパーティーを率いてた……名前なんだったっけ?確かテイルとかそんなん。

アクアが魔法を放つタイミングや現場の指揮はカズマに一任されていて、ギルドの職員からに指示を出す為の魔道具まで預けられている。

カズマが今回の作戦の中核であるアクアやめぐみんの、そしてこの街最強である俺のパーティーリーダーだからと言う事らしい。

俺としてもどこの馬の骨ともわからん奴にあれこれ指示されたくねーし(今回の俺の役割は遊撃でそもそも指示は受けないが)、カズマは合点がいかず首を捻ってたがこの采配は的確だったと思う。

やがてデストロイヤーがすぐそこまで接近している。見上げんばかりの巨体が放つ圧倒的な威圧感に、その巨体からは考えつかないほどの機動力。そして中心部の砦のような建造物からは、決して尽きることが無いかのような、莫大な魔力を感じ取れる。

こんな常識外れのデカブツを動かすエネルギーを賄える方法……考えられるとすれば、伝説の超稀少鉱石、コロナタイトを動力源にしているのかもしれない。

デストロイヤーは仕掛けられた数々の罠を予想通り物ともせず、地面を踏みしだく轟音を響かせながら進路上の全てを蹂躙すべく、迎撃地点へと突っ込んできた。

『アクア!今だ、やれっ!』

カズマが拡声魔道具で指示を出すと、アクアの周囲の地面に複雑な魔法陣が浮かび上がり、アクアの手には白い光の玉が浮かんでいる。


「セイクリッドォォォオオオオオ……ブレイクスペルッ!」


そしてアクアはそれを前にかざすと、デストロイヤーに向かって撃ち出した。撃ち出された光の玉がデストロイヤーに触れると同時に、その巨体を薄い膜の様な物が覆う。おそらくは例の対魔術結界だろう。


「くうっ、ぅぅぅううう……ぁぁぁあああああああーーーっっ!!!」


進撃するデストロイヤーとアクアのブレイクスペル……両者はしばらく拮抗したが、叫び声とともにアクアがさらに力を込めると、魔力結界はガラスが砕ける様な音とともに粉々に弾け飛んだ。

他者からの干渉を受けたことで、デストロイヤーの装甲のあちこちから魔方陣が浮かび上がり、その中心から熱光線が放出される。

魔力を持つ者に反応して打ち出され、無差別に全てを消し潰そうと言うその光線に対し-


「凍てつけ……白蓮氷葬!」


俺は『雪月華』の冷気を全開にしつつ高速剣撃を繰り出し、片っ端から撃ち落としていく。

……が、やはりデストロイヤー相手ではパワー不足なのは否めない。街の魔法使い職達も魔法で加勢しなんとか相殺できちゃいるが、このままじゃジリ貧だ……!

「白蓮氷葬!白蓮氷葬!白蓮-ぅぐっ…!?」

精霊結晶を過剰に行使した反動で、肉体が悲鳴を上げてやがる……チッ、やっぱ世の中そう甘くはねーんだな。

迎撃の核であった氷結の剣撃が途切れたことで、数多の熱光線が次々と冒険者達に降り注ぐ。

………舐めてんじゃねーぞデカブツが!


「火焔竜演舞!」


俺は『ちゅーれんぽーと』を抜き、炎の斬撃をもって再び段幕攻撃を相殺する。できれば念のため魔力は温存しておきたかったが、そんな悠長なこと考えてられないからな。

「火焔竜演舞!火焔竜演舞!火焔竜演舞……オメーらさっさとぶっ壊せ!このペースじゃあまり長くは持たねーし、もたもたしてたら結界が復活してしまうぞ!」

「わかってる!『ウィズ、頼む!そちら側の脚を吹っ飛ばしてくれ!』……おい、お前の爆裂魔法への愛は本物なのか!?ウィズに負けたらみっともないぞ!」

ウィズに指示を出し終わると、カズマは緊張で震えているめぐみんに檄を飛ばす。

ほう……流石は俺達を率いるリーダーだけあって、どうやらカズマは今のめぐみんを鼓舞するために、最も必要なものは何かをわかってるようだな。

期待、優しい言葉や励ましは、時としてプレッシャーと重荷になる。それらに応えたいという想いが、逆に自身の体を締め付ける。

今のめぐみんに必要なのは断じてそんなものではなく-


「お前の爆裂魔法は……アレも壊せないへなちょこ魔法かぁっ!?」

「なっ……なにおうっ!?我が名をコケにするよりも、一番私に言ってはいけない事を口にしましたね!」


己の覇道が何たるかを思い出させること。そのために挑発はうってつけだ。めぐみんは逆境に弱いが、爆裂魔法へのプライドはそれ以上なのだからな。

「見せてあげましょう、我が覇道を……我が爆裂魔法を!」

俺の剣撃でもレーザー弾幕を抑えきるのが限界になり、またデストロイヤー本体も轟音と共に俺たちがいる場所を通り抜けようとする中、


「「黒より黒く闇より暗き漆黒に、

我が深紅の混淆を望みたもう……」」


かつては『氷の魔女』の名を欲しいままにした、今は経営難に苦しむ小さな魔法店のリッチー。

現在進行形で頭のおかしい爆裂娘の名を欲しいままにしている、唯一つの魔法に全てを捧げた紅魔族随一の天才。


「「覚醒のとき来たれり。

無謬の境界に落ちし理、

無行の歪みとなりて現出せよ!」」


その二人の最強の攻撃魔法が、難攻不落の賞金首へと放たれる。



「「『エクスプロージョン』ッッ!!」」



―全く同じタイミングで放たれた二人の魔法は、機動要塞の脚を一つ残らず粉砕していた。 




突然脚を失った機動要塞が、とてつもない地響き、そして轟音と共に、平原の只中に墜落し街の方へと地を滑る。

その滑り続ける巨体は街の前のバリケードに届く事はなく、最前線で立ち塞がるララティーナの、ほんの目と鼻の先で動きを止めた。

……その胆力だけは認めてやらんでもない。

進撃を停止したと同時に展開していた魔方陣も消失する。……危ない危ない、あとほんの数秒遅れてたら、レーザー段幕に押し負けて地獄絵図だったぞ。

また、轟音と共に爆砕した巨大な脚が破片となって降り注ぐ。ウィズが脚を吹き飛ばした側は、欠片も残さず吹き飛ばされたため殆ど欠片は降ってこない。

俺は『エア・ウォーク』でカズマ達の方向へと移動し、


「虎狼輪廻流!」


破片がカズマ達に当たらないないよう、『雪月華』を円の軌道で振り回して受け止めてから、カズマの隣に着地……と同時にその場に倒れ込んだ。

「お、おいみんちゃす大丈夫か!?」

「疲れたからちょっと休憩してるだけだ。大技連発して体がだるいんだよ」

「紛らわしいな!?」

まあ実際はだるいどころじゃないけどな。……まさか精霊結晶のデメリットがこんなにキツいとはな。白蓮氷葬連発はもう二度とやりたくねぇ。



「ぐぬぬ……む、無念です……。流石はリッチー……今の私では、ウィズの爆裂魔法に勝つにはレベルが足りないようです」 

俺と同じくうつ伏せに倒れたままのめぐみんが、心底悔しそうにそう呟いた。俺もあの店主には借りがあるから気持ちはよくわかる。カズマがめぐみんを抱き起こすと、魔力を使い果たして満身創痍の表情で、

「く、悔しいです……つ、次は……。次こそは……!」

「よしよし、良くやった良くやった。相手はみんちゃすですら敵わなかった、魔導を極めたリッチーだぞ。今はまだ無理でも次回また頑張ればいいさ。見ろ、目的は果たせたんだ。ご苦労さん」

カズマが木陰に寝かせようとするが、それでもめぐみんは息絶え絶えにしがみつく。

「もう一度……!もう一度チャンスが欲しいです!私の爆裂魔法こそが最強だという証明を……!」

「こ、こらっ、止めろ!ズボンを掴むな!分かった、爆裂魔法に関しちゃお前が一番だって!」

少なくとも爆裂魔法への拘りと愛情は一番だな……。

「あれだよ、さっきは調子が悪かっただけだよ!ほら、魔力が回復した状態ならまたお前の爆裂魔法を見てやるから、とっとと安全な所で休んでろ!」

カズマがめぐみんを木陰にずるずると引っ張って横たわらせると、アクアとウィズが俺達の元へとやって来た。

ララティーナは目を閉じる事すらなく、一歩もその場から動かずにいる。

俺達が改めてデストロイヤーの巨体を見上げると、脚を失った巨大要塞は沈黙を保っていた。

他の冒険者達からは、おお……、と感嘆の声が上がる。


……待てよ?もし俺の推測通りデストロイヤーの動力源が、伝説の鉱石コロナタイトだとしたら……


「やったわ!何よ、機動要塞デストロイヤーなんて大げさな名前しといて、期待外れもいい所だわ。さあ、帰ってお酒でも飲みましょうか!なんたって一国を亡ぼす原因になった賞金首よ、一体報酬はお幾らかしらね!!」

「このバカッ、なんでお前はそうお約束が好きなんだよ!そんな事口走ったら……!」

アクアが口にした、以前授業でぷっちんの奴が教えていた敗北する確率を跳ね上げる台詞に、カズマが反応したその瞬間…

「……? な、なんでしょうか、この地響きは……」

ウィズが不安そうに機動要塞の巨体を見上げた。大地が震えるようなこの振動は、明らかにデストロイヤーを震源としている。

冒険者達が不安げにその巨体を見上げる中、


『この機体は、機動を停止致しました。この機体は、機動を停止致しました。緊急迎撃術式、【サモン・ゲート】起動。

また、排熱及び機動エネルギーの消費が出来なくなっています。この機体は……』

機動要塞の内部から、その機械的な音声は唐突に、繰り返し何度も流された。

デストロイヤーの動力源が、伝説の鉱石コロナタイトだとしたら……使い道を失い行き場を失った膨大なエネルギーが原因で、爆裂魔法をも上回る大爆発が起きるだろう。

「ほらみた事か!お前って奴は、一つ役に立つと、二つ足を引っ張らないと気が済まないのか!」

「待って!ねえ待って!これ、私の所為じゃ無いからっ!私、今回はまだ何もしてない!!」

カズマの怒声とアクアの悲鳴を皮切りに、たくさんの中型ゴーレム達……そして、多種多様のモンスターの群れが、デストロイヤーの内部からゆっくりと這い出てきた。やれやれ、おちおち休んでもいられねーな……。


 

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