第20話:機動要塞の脅威③
【sideカズマ】
ギルドに入ってきたのは、何かの作業中に慌てて飛び出して来たのか、黒のローブの上に店で使うエプロンを付けたウィズだった。
「来た!店主さんだ!」
「遅かったじゃねーか貧乏店主さん!」
「店主さん、いつもあの店の夢でお世話になってます!」
「来た!店主さん来た!これで勝つる!」
途端に上がる歓声。俺達はウィズがリッチーだと知っているから頼もしく感じるが、他の冒険者達はなんでこんなに喜んでいるんだ?
「なあ、なんでウィズってこんなに有名なんだ?人気ありそうだが、どうなってるんだ一体?……ていうか、可哀想だから貧乏店主はやめてやれよ」
俺が近くのテイラーに尋ねると、
「知らないのかカズマ?ウィズさんは元は高名な魔法使いだったんだ。かつては凄腕アークウィザードとして名を馳せたが、やがて引退してしばらく姿を現さなかったかと思うと、突然この街に現れてお店を出したんだ。ウィズさんのお店が流行らないのは駆け出しが多いこの街には、高価なマジックアイテムを必要とする冒険者がいないのが原因だな。首都にでも店を出せばもう少し需要はあると思うが、強敵と戦う訳でも無い俺達が高価な薬や超高額な魔道具を使う事は無いからな。だけど皆、美人店主さんを見に店をこっそり覗きには行ってるんだよ。買わないだけで」
そう言えばみんちゃすがそんなこといってたっけ……いや、そこは買ってやれよ。
「ど、どうも、店主です、ウィズ魔法店をよろしく……。店主です、ありがとうございます。店をよろしくお願いします、お店がまた赤字になりそうです……!」
そう言って、ウィズは歓声を上げる冒険者達にぺこぺこと頭を下げている。
今度何か買って行ってやろう……。
「俺は結構色々買ってるぞ?この前魔剣の奴に飲ませたレベルリセットポーションとか、嫌がらせに役立つ道具が目白押しだ」
なんでこいつそんなえげつないことを澄んだ目で言えるの?
「ウィズ魔道具店の店主さん、これはどうもお久しぶりです!ギルド職員一同、歓迎致します!……では、店主さんにお越し頂いた所で、改めて作戦を!まず、アークプリーストのアクアさんが、デストロイヤーの結界を解除。そして頭のおかし……、めぐみんさんが、結界の消えたデストロイヤーに爆裂魔法を撃ち込む、と言う話になっておりました」
「おい、今何を言おうとしたのか詳しく聞こうじゃないか。さもなくば我が爆裂魔法がこのギルドもろとも消し飛ば-」
「オメーの今日の標的はデストロイヤーだろうがバカヤロー。……だがめぐみんだけだと荷が重いだろうから、危うく俺が闘気を全開にして捨て身で突っ込まなきゃならなかったが、アンタが加わるならその必要も無さそうだな」
職員とみんちゃすから話を聞いたウィズが、口に手を当て考え込む。
「……爆裂魔法で脚を破壊した方が良さそうですね。デストロイヤーの脚は本体の左右に四本ずつ。これをめぐみんさんと私で、左右に爆裂魔法を撃ち込むのはどうでしょう。機動要塞の脚さえ何とかしてしまえば、後は何とでもなると思いますが……」
ウィズの提案に職員も頷く。流石はリッチー、爆裂魔法も使えるのか。
確かに脚さえ何とかなればもう機動要塞では無くなるし、街が蹂躙される恐れも無くなる。
戦闘用のゴーレムが配備されているらしい危険な本体にわざわざ乗り込むまでもない。
動かなくなったデストロイヤーはしっかり監視して、一日一爆裂の的にでもするなりしてゆっくり攻略すればいい。内部にいるらしい開発研究者とやらも、魔王軍幹部すら根を上げた爆裂地獄を喰らい続ければ、遅かれ早かれ投降してくるだろう。……つーかそもそも進撃さえ止まれば、あとはみんちゃすあたりがどうとでも片付けテクれそうだな。
「……でも、レーザー弾幕はどうするんだ?デストロイヤーに何らかの干渉を加えるとバカスカ撃ってくるんだろ?」
「そこは何も問題ねーよ安心しな。たとえ何十発何百発何千発撃ってこようが……一つ残らず全部撃ち落としやる」
冒険者の一人が不安そうにそう言うとみんちゃすは二本の刀を抜刀し、決めポーズを取りながらそう言い切った。
……こういった紅魔族的なノリはともかくとして、こういう時のみんちゃすはやはり頼もしい。
「お、おぉ……流石は『赤碧の魔闘士』だ」
「こういうときは頼りになるな。普段はヤクザみたいな性格のクソガキなのに」
「みんちゃす式殺法その五・眼球打ち」
「ア”―――っ!?目が、目がァァァアアアアア!?」
みんちゃすをクソガキ呼ばわりした冒険者は、眼球に強烈なデコピンを喰らいラピュタ王の如くのたうち回った。みんちゃすはいついかなるときでも喧嘩を売ってきた奴を見逃さない。
その後、ウィズのその提案を元に作戦が組まれた。万が一を考え駄目元で街の前に罠を張る、バリケードを造る等、色々な案が出され、
そして…
「では結界解除後、爆裂魔法により脚を攻撃。万が一脚を破壊し尽くせなかった事を考え、前衛職の冒険者各員はハンマー等を装備し、デストロイヤー攻撃予定地点を囲むように待機。魔法で破壊し損なった脚を攻撃しこれを破壊。要塞内部には、デストロイヤーを開発した研究者がいると思われるが、この研究者が何かをするとも限りません。万が一を考え本体内に突入も出来る様にロープ付きの矢を配備し、アーチャー等はこれを装備。身軽なクラスの人達は突入準備を整えておいて下さい!」
進行役のギルド職員が作戦をまとめ、冒険者達にそれぞれ指示を出していく。ちなみにみんちゃすだけは職員から指示を受けず、遊撃手として必要な局面を判断して介入して欲しいそうだ。駆け出しの街担当のギルド職員が指示を出しても、あいつのスペックは完全にもて余してしまうとのこと。
街の前には冒険者達だけではなく街の住人達も集まって、突貫作業で即席のバリケードが組み上げられている。
作業に従事しているのは以前俺とアクアがこの街に来た当初お世話になった、土木会社の親方の姿もある。
デストロイヤーを迎え撃つ予定の場所は、街の正門の前に広がる平原。そこには罠を設置できる職種の者が、無駄とは知りつつも即席の罠を仕掛けている。
街の前のバリケードの前にはクリエイターと呼ばれる職種の連中が集まり、あーでもないこーでもないと言い争い、地面に魔法陣を描いていた。
ちなみに俺はというと…
「おいダクネス、お前、悪い事言わないから下がってろよ。お前の固さは知ってるが流石に無理があるし、そこにいても役に立てないって。お前のどうしようもない趣味は流石に置いといて、俺と一緒に道の端っこに引っ込んでおこう。な?」
街の正門の前のバリケード、その更に前にジッと立ちはだかるダクネスに、再三の説得を続けている。この変態クルセイダーがここから動かないと言って聞かないのだ。
ダクネスが大剣を地面に刺し、柄に両手を掛け、遠くを……まだ姿も見えないデストロイヤーの方を見ながらしばらくじっと黙ったていたが、やがて口を開く。
「……カズマ。私の普段の行いのせいで、そう思うのも仕方が無いが……この非常時に私が、自分の欲望にそこまで忠実な女だとでも思うか?」
「思うよ。当たり前じゃん」
「…………」
一瞬静かになったダクネスが、ちょっと頬を赤らめて、そのまま静かに続けた。
「……かの『白騎士』アステリア様はその剣技をもっててデストロイヤーの進路を力づくでずらすことで、いくつもの街を脅威から救ってきたという。私はまだ未熟であの方とは比べるべくもないが、それでも騎士の端くれだ。そしてそれ以外にも、私にはこの街を守る理由がある。……その理由は、いずれお前達には話すかもしれない」
その言葉に俺がダクネスに頷くのを見て、ダクネスが話を続けた。
「今はまだ言えないが、私にはこの地の住人を守る義務がある。この街の住人達は気にしないだろうが、少なくとも私はそう思っている。だから……無茶だと言われても、ここからは何があっても一歩も引かん」
「お前って、たまにどうしようもなくワガママで、本当に頑固な所があるよな」
俺が呆れた様に言うと、ダクネスが少しだけ困った様な、不安そうな顔で。
「……ワガママで頑固な仲間は嫌いか?」
「そもそもうちのパーティーは、揃いも揃ってワガママで頑固な奴ばっかだろうが。……まあ、どこかのアークプリーストのワガママは、聞いてるとイラッとしてひっぱたきたくなるが……今のお前みたいなのは嫌いじゃないよ」
俺が適当に言ったその言葉に。
「……そうか」
少しだけ、安心した様にダクネスが呟いた。
「説得は失敗した。あの頭の固い変態を守る為にも、成功させるぞ」
俺はデストロイヤー迎撃地点の脇で待機しているめぐみんの隣に屈み込むと、緊張気味のめぐみんに告げた。
「そ、そそ、そうですか……!や、やらなきゃ……!絶対やらなきゃ……!」
「お、おい落ち着け。いざとなったら、またみんちゃすに昏倒させてもらって、スティールで装備を軽くして軽くして引っ張ってくから」
前々から思ってたが、こいつ意外と逆境に弱いな。
「んー……氷結……氷刃……氷葬…っ!これだ!よし決まった、この剣技の名は白蓮氷葬で決定だ!」
少し離れた場所で待機してるみんちゃすは、暢気に新技の開発、というか技名決めに精を出していた。あいつはあいつで逆に余裕過ぎるだろ……まあ頼もしいっちゃ頼もしいけど。
―それよりも……
「ねえちょっと、あんた頭から煙が上がってるけど大丈夫なの?なんなのそれ?この私相手に芸でも披露する気なの?」
「ち、違いますアクア様……。これはその、この良く晴れた天気の中、長時間お日様の下にさらされているもので……」
みんちゃすのさらに向こう側、迎撃地点を挟んだ場所ではアクアとウィズが屈み込み、何やら話しこんでいる。
俺達やアクア達の周りには、ゴーレムに効果が高そうな、ハンマーなどの打撃武器等を持った冒険者達が寄り集まっている。
そしてつアーチャーの連中は、先がフック状になった、尻の部分に細いながらも頑丈なロープの付いた矢を弓につがえ、もしもの時には、何時でも、動きを止めた機動要塞に乗り込める様、ロープを張れる準備を終えていた。
―魔法で拡大されたギルド職員の声が、その場に響き渡った。
『冒険者の皆さん、そろそろ機動要塞デストロイヤーが見えてきます!街の住人の皆さんは、直ちに街の外に遠く離れていて下さい!それでは、冒険者の各員は、戦闘準備をお願いします!』
機動要塞デストロイヤー。
それはどこかのチート持ちの日本人が、冬将軍のときみたいに、適当につけた名前だそうだ。
場当たり的なノリで適当に名付けるなと言いたい所だが、その姿を見た者なら納得できると言う。
「っ……この無尽蔵の魔力……来るぞ。キレた母ちゃんと同じくらい恐ろしいと言われる、この世の理不尽そのものが」
何かを感知したみんちゃすがそう呟いたのを皮切りに、遠く離れた丘の向こうから最初にその頭が見えてきた。
感じるのは軽い振動。
まだほんの僅かな物だが、確かに大地が震えている。
「何あれでけえ……」
誰かがぽつりと呟いた。
確かにデカイ。
爆裂魔法の威力は、めぐみんとの長い付き合いで重々よく知っている。
その俺が言わせて貰う。
これ……本当に爆裂魔法で破壊できるのか?無理じゃね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます